炭素鋼のA_1點以下の燒入による時効硬化現象を研究し、時効中のロックウエル硬度Bスケール、抗張試驗、電気抵抗、比重等を測定して次の結果を得た。(1)炭素鋼のA_1點以下の燒入による時効硬化はα鐵中の炭素の溶解度が温度によつて變化することに基因する。(2)時効中の硬度の増加率は低炭素鋼程大である。0・1%炭素鋼の硬度は燒鈍状態に比し700℃より燒入直後は約30%, 常温時効後は約60%増加する。抗張力も略之と同程度の増加をする。(3)時効硬化後の加熱に際しては硬度は200℃迄は急激に減少し、是れ以上の温度に於ては其減少は緩である。(4)電気抵抗は時効中増加し、その後の加熱によつて減少する。比重は徐々に増加するのみである。(5)時効硬化の機構に關しては次の如く説明せられる。即ち時効中は炭素原子はα鐵の空間格子内を移動し、時効後の加熱によつてセメンタイト分子はα固溶體より析出し、250℃以上に於てセメンタイトに特有なる空間格子を形成する。此理論によつて時効中竝に時効後の加熱による諸種の現象を説明した。
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