1999年から2004年にかけて, 千葉県袖ケ浦市吉野田で行った下総層群清川層 (MIS7.4~7.2) の発掘により, 多数の脊椎動物化石が産出した. それらのシカ類化石産出層準のうち, 最も下位のチャネル内の砂礫層からはニホンジカ
Cervus (
Sika)
nipponの左角が産出し, 上位の氾濫原相の砂~砂質泥層からは, ニホンジカ亜属の一種
Cervus (
Sika) sp. の中手骨と中足骨, ならびに最少で2個体に由来するシカ属の一種
Cervus sp. のさまざまな部位の骨化石が産出した. これらのうち角化石は, 同種の化石として産出年代が正確で分類も信頼できる国内5例目の記録で, 静岡県浜松市産出の佐浜標本とならび国内最古級である. そして, これまで古生物学的に考えられてきたニホンジカの進化シナリオと一致しない. また, ニホンジカの存在は当時この地域が温帯で, 近傍に森林が存在したことを示唆する. ニホンジカは日本最大の草食獣であるが, その化石記録は少なく, その起源と進化に関する古生物学的研究は少ない. ニホンジカ亜属を含む吉野田産シカ類化石は, そうした問題や日本の偶蹄類相の変遷史を議論していく上で重要である.
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