背景および目的日本では2006年にフィリピンと経済連携協定(EPA)を締結後、外国人看護師が来日し就労研修をおこなう制度が導入された。しかし受け入れ体制に関しては保健医療機関における研修内容の明確な規定がないなど、試行錯誤の状態が続いている。そこで、研修システムへの示唆を得るため、外国人看護師の受け入れ体制の整備がされている英国で調査をおこなった。
方法英国で2012年3月に外国人看護師の教育プログラム(ONP)を持つ2つの大学のプログラム責任者にヒアリングを実施するとともに、外国人看護師の受け入れ窓口である看護助産評議会(NMC)の資料収集をおこない分析した。
結果英国での看護師免許登録申請に際しては、申請要件として一定の英語力、看護業務従事歴、および教育歴の3点を求められる。NMCがそれらの基準を満たしていると認めると、ONPを受講できる。自国での看護教育が規定時間数に満たない場合は、必修研修のほかに個々の状況に応じて臨床実習も課される。ONPはNMCがカリキュラムを作成しNMCからコース認可を受けた大学が実施するが、認可更新は5年に一度行われる。主な教育内容は英国の文化・社会・保健医療制度と看護専門職としての実践に必要な知識である。それらを20日間の必修研修と原則6か月の臨床実習を通して学ぶが、実習期間はNMCが個別に審査をして決定する。臨床実習は大学がONP実習に認定した施設で、NMCの指導資格をもったメンターが指導しておこなわれる。そしてONPの最終成績はNMCに送付される。
ONPは、必修研修のみ実施している大学と、必修研修および臨床実習の両方を提供している大学がある。前者は主に英語圏で看護教育カリキュラム上追加実習を必要としない国からの受講生がほとんどで、後者は多様な文化背景をもつ母国語が英語でない受講生が多い、という特徴があった。
考察英国では看護師および看護の質を担保するためのシステムがNMCによって何重にも設けられているが、コミュニケーションの障害などの問題は残る。NMCは看護師個々の能力に合わせて研修するなど、個別に対応していくことで、看護師および看護の質を担保しようとしていた。日本ではEPAによる外国人看護師の実務研修の多くは、教育施設ではなく受け入れ施設に依存しているのが現状である。今後は、大学や都道府県看護協会などの公的機関での研修等をとおして、外国人看護師および看護の質の担保をおこなうことも考慮していくことが必要であろう。
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