本研究では, 長唄演奏家と声楽家の音声の可視化による比較検討及び声楽家へのインタビューを行い, 長唄演奏家の音声を模倣しようとする声楽家の声の操作性を明らかにすることを試みた。長唄の発声者1名, 声楽の発声者1名の歌声 (唄声) を対象とし, 長唄の《三番叟》の一部分をうたわせ, 音声の周波数分析を行った。長唄演奏家と声楽家の音声を比較し相違点として明らかになったのは, 周波数帯域4kHz以上の高調波の有無, 高調波の上下変動状況の相違, 音節の境界の無音区間による切れ目の明瞭さの3点であった。また, 長唄の音声を模倣しようとした声楽家の音声の変化を分析した結果, 声楽家は高調波成分の制御, 1母音内の周波数変調や振幅変調を引き起こすような操作によって, 長唄らしい特徴をもつ声を出そうとしたことが推測された。その際, 普段とは異なる身体感覚, 空間の意識をもつことで声をコントロールして長唄の音色に近づけようと試みていた。
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