【目的】
外反母趾(Hallux valgus)とは、第1基節骨が第1中足趾節関節で外反・内旋した変形である。外反母趾変形が進行すると
母趾外転筋
は第1中足骨の底側に回り込み(Brenner、1999)、
母趾外転筋
の機能低下が起こると考えられている。そのため、軽度の外反母趾には、母趾外転のエクササイズが推奨されているが(山本、1998)、
母趾外転筋
の収縮による母趾外転運動が困難な例がある。
本研究では、電気刺激により母趾外転運動を誘導することで、現在行われている
母趾外転筋の随意収縮を用いた運動療法よりも効果的に母趾外転筋
の活動を向上させることができるかを検証した。
仮説は、電気刺激により
母趾外転筋
の筋活動が増加し、外転時の外反母趾角の減少、
母趾外転筋
力の増加、アーチ高の上昇が起こるとした。
【方法】
対象は、本研究に同意の得られた男女大学生16名(男性8名、女性8名)、32足とした。対象の年齢の平均±SDは22.6±1.8歳であった。
電気刺激には複合治療器(Dynatron 950plus、ダイナトロニクス社)を用い、電極を対象の
母趾外転筋
に貼付し、2,500Hzの群波形をバーストさせ周波数50Hz 、パルス幅10msec、立ち上がり時間1秒、下降時間1秒とし、10秒の通電と10秒の休止を合計15分間行った。強度は、対象が耐えられる最大の強度として、通電中は随意的に外転運動を行わせた。頻度は、1日1回、期間は1週間で5回行った。以下、随意的な母趾外転運動を伴う電気刺激を介入とする。
評価項目は、安静時と母趾外転時の外反母趾角、アーチ高、
母趾外転筋
力、母趾外転時の
母趾外転筋
筋活動とした。外反母趾角の測定には、介入後に足部の外郭線をトレースした安静時・外転時の外反母趾角を用いた。アーチ高は、舟状骨結節の床からの高さとした。
母趾外転筋
力の測定には、等尺性筋力計(μTas F-1、ANIMA社)を用いた。なお、
母趾外転筋
力の測定は、予備実験で優秀な再現性が確認されている。筋活動の測定には表面筋電図(SX230-1000、バイオメトリクス社)を用いて、立位における前足部荷重を最大随意収縮(MVC:maximal voluntary contraction)とし、母趾外転時の筋活動を算出した。介入前後での比較は、対応のあるt検定を用い有意水準を5%未満とした。外反母趾角の経時的な変化は介入前との比較のため、多重性を考慮しBonferoni法による補正を行い有意水準1%未満を有意とした。
【説明と同意】
対象には、目的や方法を十分説明した後、署名にて同意を得た。なお、本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号1031)。
【結果】
対象の電気刺激介入期間は平均4.6回(4回が6名、5回が10名)であった。
介入前の安静時の外反母趾角は14.7±6.5°、母趾外転時の外反母趾角は8.4±7.0°であり、その変化量は6.3±3.9°であった。介入後の安静時の外反母趾角は14.1±6.1°、母趾外転時の外反母趾角は5.7±6.8°であり、その変化量は8.3±4.4°であった。介入前後で変化量に有意差を認めた(p<0.01)。
母趾外転時の外反母趾角は8.4±7.0°であったが、1回目の介入後5.7±8.2°へ有意に減少し(p<0.01)、その後著明な変化はみられず、1回目の介入後に母趾外転時の外反母趾角は大きく変化していた。
アーチ高は40.0±9.6 mmから40.6±8.2 mm、
母趾外転筋
力は15.4±8.4Nから16.7±7.5Nへそれぞれわずかに変化したが、有意差は認められなかった。母趾外転時の
母趾外転筋
筋活動は、介入後に56.0±29.8%から107.5±41.6%へ有意に増加した(p<0.01)。
【考察】
母趾外転時の外反母趾角は1回目の介入で有意に減少し、その後著明な変化はみられなかった。介入により
母趾外転筋
筋活動が増加することで母趾外転時の外反母趾角は減少し、その後の介入では一定の外反母趾角を維持できたものと考えた。軽度の外反母趾に対して推奨されている随意的な母趾外転運動を行うことができない対象(安静時の外反母趾角と母趾外転時の外反母趾角の変化量が3°以下)が本研究で10足にみられ、それらの対象でも変化量は増加したことから外反母趾の治療としての母趾外転運動を行う前段階として今回行った介入が有用であると考えられる。
今回の研究では、アーチ高に有意な変化はみられなかったが上昇傾向にあり、
母趾外転筋
は足部内側縦アーチに関係していることから(Headlee、2008)、アーチ高は
母趾外転筋
筋活動の指標となることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】
本研究の結果から、
母趾外転筋
への1回の電気刺激で効果的に母趾外転運動が可能となることが示唆された。本研究では健常大学生を対象としており、今後は外反母趾患者で研究を行い、外反母趾の保存的治療の一助になると考える。
抄録全体を表示