戦前のラジオ講座テキストと,そこから読み取れる教育・教養番組の歴史について振り返っている本シリーズ。戦前のテキストの概要を紹介した前回(本誌1-2月号)に続き,今回は語学番組,講演番組,学校・子ども向け番組と,関連するテキストに焦点を当てる。
このうち,語学番組は,戦前から英語講座が最も多く放送され,受験英語講座や英語会話講座を含め,聴取者の目的に応じて多様なテキストが刊行された。また,放送草創期からドイツ語,フランス語の講座が放送され,1930年代になると,「支那語」や「満洲語」の講座も始まった。当時の国際情勢も反映しつつ,講座の対象となる言語が選ばれていたと言える。
講演番組も戦前の主要な番組の1つで,放送草創期からほぼ連日放送されていた。放送後に改めてその内容を確認したいという希望が強かったこともあり,東京に限らず,各地の放送局でも講演集が刊行された。多様な内容を収録していた講演集だが,1930年代後半以降,戦時体制の進展とともに,政府・軍による国策の宣伝の割合が高くなった。
学校放送や子ども向け番組でも,戦前,月刊の教師用テキストや『コドモのテキスト』が刊行され,さまざまな知識の普及に寄与した。ただし,ほかのジャンルと同様,戦時体制のもとでしだいに時局を反映した内容へと変化し,用紙統制とともに多くのテキストが姿を消していった。テキストからは,放送番組の変化とともに,戦争へと向かう中での社会の変化も読み取ることができる。
2025年3月22日,日本で放送が始まって100年を迎える。NHK放送文化研究所では,戦前のテキストのデジタル化を進めており,放送100年を契機に,本稿で紹介したテキストの一部についてもインターネットで閲覧できるようにする予定である。
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