広島県東部を流れる芦田川の中流域に生息するミナミヌマエビについて生態学的研究を行い, 次の結果を得た。
1) 1985年5月から12月までの8ケ月間に9回の採集を行い, 抱卵雌49個体を含む合計1, 776個体のミナミヌマエビが得られた。
2) 本種の芦田川中流域における産卵期は5月から9月までの5ケ月間である。この産卵期間のうち, 7月と9月に産卵のピークが現れ, 前期発生群と後期発生群が形成される。
3) 前期発生群は越年群 (前年に発生した前期発生群と後期発生群) の産卵活動によって形成され, 後期発生群は当年の前期発生群のうちの成長の速い一部の個体によって形成される。
4) 本種の個体群の寿命は雌雄ともに前期発生群は約14ケ月, 後期発生群は約11ケ月であり, それらの死滅期は8月と推定される。したがって前期発生群のうちの大多数の個体と後期発生群の全個体は一生のうち発生した翌年の産卵期のみに産卵活動に関与するが, 前期発生群のうちの一部の個体は発生当年とのその翌年の2回, 産卵活動を行う。
5) 前期発生群は発生後3ケ月 (9月末) で, 雄は体長約12.5mm, 体重35mg, 雌は体長約13mm, 体重約39mgに成長する。6ケ月後 (12月末) には雄は約17mmで約86mg, 雌は約19mmで約128mg, 10ケ月後 (発生翌年5月初め) には雄は約20mmで約139mg, 雌は約23mmで約233mgに達する。死滅期の8月末には雄は約21mmで約161mg, 雌は約24mmで約267mgとなる。
6) 後期発生群の成長は, 発生後3ケ月 (12月初め) では雌雄ともに体長約12mm, 体重約30mg, 7ケ月後 (発生翌年5月初め) に雄は約17.5mmで約94mg, 雌は約19mmで128mgに達する。10ケ月後 (発生翌年7月) の体長と体重は前期発生群の死滅期のそれらとほぼ等しい。
7) 本採集標本におけるミナミヌマエビの雌の生物学的最小形は体長16.6mmであり, 雌雄が識別できた最小体長は7.0mmである。
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