文学史について考えることは、それが必然化する物語によって表象される文学研究者の認識枠組を明らかにするばかりでなく、文学研究者の根源的な欲望を浮かび上がらせる契機ともなる。近代日本は文学史の黄金期を二度経験している。一度目は、明治後期の国文学の形成期であり、二度目は、戦後の日本近代文学研究の成立期である。いずれも、高等教育機関における専門的研究者の養成と文学(史)教育のための教材出版・資料整備との連動が見られるが、戦後の場合、文庫・新書・文学全集のブームなど、より広汎な文学大衆化の波と重なって、近代文学(純文学)の社会的評価の高まりと連動したために、近代文学についての批評や研究を制度化する強い力として作用した。
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