パシネッティは,自然経済モデルを提示して,利潤率に存在理由を与えるのは新投資の必要であり,均衡状態では「利潤は新投資に等しくなる。そして賃金は消費に等しくなる」ことを示し,完全雇用は自動的には達成されないが,「自然経済によって定義される構造に可能な限り近づけることが,社会的目標の1つでなければならない」とした。
しかし,総営業余剰・混合所得から法人税と総固定資本形成を控除したものを再投資されない利潤と呼べば,投資の減退は先進諸国において,再投資されない利潤の増加をもたらしている。
そして,ピケティの指摘を踏まえれば,この均衡からの乖離が発生している根本原因は,資本が増加しなくても利潤率が5%程度以下に下がらないことにある。
そこで本稿では,民間経済の不均衡を政府の財政機能で是正するモデルを提示して,政府がこれを克服する財政機能を備えていることを示すとともに,再投資されない利潤のうち内部留保が消費需要不足を補塡する財政赤字を必要とすることを明らかにした。
そして,内部留保を支える財政赤字の累積が国内生産力を弱め,社会保障への不安を高めつつ格差を拡大する一方,法人企業をマネーゲームの主体に変質させて,国民国家としての経済の自律性を弱めているという観点から,内部留保税や独占利潤に対する税の導入を含め,法人関係税や所得税の機能を強化する必要性を明らかにした。
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