本論の目的は, ガーナ南部のココア生産地域を対象に, 複数の民族/
社会集団
に出自をもつ農民による土地相続の実態とその論理を明らかにすることである。アフリカ社会の親族システムと労働生産様式の変化を主題とする先行研究では, 市場経済化や換金作物生産の開始に伴い, リネージによる財の共同保有を基盤とする伝統的な相続形態から, 核家族と父権中心性に基づく新たな相続形態への移行が生じると論じられてきた。しかし, ガーナ南部における土地相続の実践は, ココア生産の開始に伴う「伝統」から「近代」への単線的な移行としては概括しえない, 独自の変容と持続の過程を示している。本論では, 父系制あるいは母系制をとる複数の
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について, 各集団の共地相続のしくみを検討する。この検討を通して本論は,「母系制」と「父系制」という基本的な区別のみならず,
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ごとに異なる相続のしくみが形成されていることを明らかにする。また, 土地保有と相続の実践的レベルでは, それぞれの
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が準拠する伝統的な出自システムの相違に加えて, 集団が保有している土地の規模, 相続にかかわる成員間の関係, 地域における歴史的位置に応じて, 複数の相続原理の採用と修正, 併存と拮抗状況が生じていることを明らかにする。
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