筆者らは, 数年前から集団小児
神経学
(又は小児神経保健学) という新しい領域を提唱している.小児科学が “臨床小児病学” と “小児保健学” とから成るのと同様に, 小児
神経学
は図に示す如く “臨床小児
神経学
” と “集団小児
神経学
” とから成ると考えることができる.
“集団小児
神経学
とは, 小児の集団を対象に神経疾患をどのように管理してゆけばよいかを研究するものであり, 経済水準や社会階層などにかかわりなく, すべての小児の神経系統の健康を守り, 増進させることを目的としている.” と, とりあえず筆者は定義しておきたい.
また病因論の局面における集団小児
神経学
の役割についても論じた.例えば公害起因性脳損傷の問題である.個々の脳障害児について, ある特定の化学物質との因果関係を, 臨床医学の方法のみによって診定することはしばしば不可能である.個々の化学物質ごとに, 必ずしも特異的な症候を示すとは限らないからである.このような場合, 汚染小児群と非汚染小児群とを集団として対比し, 両群における脳障害の発現率, 又は有病率を比較することにより (すなわち疫学的蓋然性によって), ある特定の化学物質との因果関係の有無を推定するという方法をとらざるをえない.
本稿は “集団小児
神経学
” についち概説することを目的としているが, この第一編においては, 上述の如く “集団小児
神経学
の系譜とその定義”, “病因論における集団小児
神経学
の役割” について論じた.
集団小児
神経学
には, その他にも多くの研究課題が考えられるが, それらについては第二編(集団小児
神経学
研究の現状) 及び第三編(集団小児
神経学
の課題と展望) において論ずる.
抄録全体を表示