わが国の商法は, 商号自由主義を採用しており, 商人がどのような商号を使用するかは, 原則として自由である.また, 自己の氏名や商号を使用して営業をなすことを許諾することも自由である.商法第23条は, 自己の氏, 氏名, または商号を使用して営業をなすことを他人に許諾した者は, 自己を営業主であると誤認して取引をなした者に対し, その取引によって生じた債務につき, その他人と連帯して弁済の責に任じなければならない旨を規定している.これは, 商号自由主義と外観を信頼した第三者の保護との調整をはかるため,
禁反言の法理
と同じ思想から, 名板貸の場合における名義貸与者の責任を定めたものである.商法23条の要件に関し, 第三者の過失の程度-名板貸人が営業主であると誤認したことに過失があった場合-と名義の使用方法が論議されてきた.名義貸与者の責任の範囲については, 次の場合に適用範囲の拡大の傾向がみられる.①名義貸与者の氏名等に支店, 出張所等の付加語が加えられたり, 簡略化される場合にも名義貸与と認め, ②営業のための名義貸与以外にも, 広く他人名義の経済取引全般にも本条を類推し, ③貸与者の許諾は黙示の許諾で十分である.平成8年の最高裁判決は, ③の貸与者の許諾について, 明示は勿論黙示の許諾さえなく, むしろ名称使用の禁止の特約さえある場合にも, 外観が第三者を誤認させるものであるなら, 本条の趣旨から類推適用を認めるものである.この方向が商法23条の解釈として妥当なものか否かを考察する.
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