高等学校教育課程「理科(化学)」履修における基礎学習項目の一つ物質量(モル)について,理系進学志望者とって必須学習項目との立場から,その修得動向や問題点を知るために平成2〜21年の20か年の大学入試センター試験(以下入試セと略)で出題された物質量(モル)関連問題(以下物関問と略)の出題動向や成績結果を利用し,この間における学習指導要領上での物質量(モル)記載内容の変遷と関連させて考察し,学習指導要領や大学入試に今後の課題を提起しようとしたものである。物質量(モル)が学習指導要領の学習項目に記載されている化学関連3科目「化学」,「化学IB」,「化学I」(以下化学関連科目と略)の入試セでの各平均得点と,それらに出題された物関問各平均得点率は学習指導要領改訂・実施ごとに変動するも,両者の間には非常に強い直線関係が成立し,少なくとも入試セ化学関連科目受験者に関しては基礎学習項目である物質量(モル)の修得定着化とその重要性が示唆された。しかしながら,学習指導要領の重要学習項目に物質量(モル)が記載されていた全員共通必修「理科I」の終了以降では,選択必履修科目の化学関連科目を選択履修しないかぎり物質量(モル)と無縁の理系大学進学者が出現することになった。その数を平成19〜22年における年平均大学等入学者の74%,51万人の入試セ受験者から推算したところ,19万人の理系大学等入学者の1.6%,約3000人となったが,残り26%,の非受験者約18万人については不明である。これらと大学新入生の化学基礎学力調査の結果とあわせ,学習指導要領,進学指導,入試制度について問題点と今後の課題を提起した。
抄録全体を表示