本報では, 居住者の「公共浴池」の利用状況と「住宅内衛生間」の入浴状況から, 居住者の入浴慣習の実態を明らかにするとともに, 「公共浴池」と「住宅内衛生間」の利用関係から今後の入浴慣習の動向について考察した.さらに, 入浴慣習の背後に存在する居住者の入浴意識について考察を加え, 今後の発展方向を探ろうとした, その結果をまとめると以下のとおりである (図13).
(1) 生活水準と住生活意識の向上にともない, 生活の便利さや快適さを追求する意識が強くなったこと, 大量生産により給湯設備の価格が安価になり, 「住宅内衛生間」が整備されてきたこと, さらに, 「公共浴池」の使いづらさも加わって, 便利な住宅内の浴室利用を推し進め, 都市集合住宅の居住者の「住宅内衛生間」に対する志向が強まっている.
(2) 「公共浴池」は, 中国都市集合住宅の居住者の入浴生活において, 長年重要な役割を果たしてきたが, 「住宅内衛生間」の空間の整備と入浴設備の充実にともない, 居住者の「公共浴池」への利用が減少してきている.
(3) 「公共浴池」の長所は, 一部の居住者が, その必要性を強く感じており, 「公共浴池」の今後の存続可能性が指摘できる.
(4) 「公共浴池」の存続には, 入浴意識の変化, 入浴空間に対する要求を考慮した空間整備, 衛生面やサービス内容, 入浴設備の改善, 利用者における湯の使用マナーの会得
などが必要である.
(5) 温泉浴やサウナ風呂の出現と普及は, 都市集合住宅の居住者の入浴生活を充実させ, 今後生活水準の向上と入浴意識の変化にともない, これらの入浴施設を楽しむ居住者が増えつつあることが示唆できる.
(6) 生活意識の変化や生活水準の向上にともない, 若年層や女性では, 入浴に「くつろぎ」「美容」「気分転換」などを求める傾向がみられたように, 都市居住者における入浴意識が多様化してきている.
(7) 少数ではあるが, 一部の都市居住者に「浸かる式」の入浴方法がなお存在している.湯に浸かることにより, 疲れが癒され, 血行が良くなり, 健康に良いという意識が, 伝統的な「浸かる式」の入浴方法を支えていることが確認された.
(8) 簡便さと燃料代が少なくても済むなどの利点があり, 「シャワー式」の入浴方法は, 主な入浴方法として, 都市集合住宅の居住者に浸透し, とくに女性や若年層ほど「シャワー式」の入浴方法をとる傾向が強い,
(9) 中国都市集合住宅の居住者の入浴は, 夏季には日常的な行為であるが, 冬季には非日常的な行為となっている.さらに, 一部の居住者が朝, 入浴するようになったように, 「住宅内衛生間」の整備や入浴意識と清潔意識の向上により, 都市集合住宅の居住者の入浴習慣に変化が生じてきている.
(10) 中国都市集合住宅の居住者の入浴様式, 入浴意識, 入浴慣習において, 著しい変化が生じてきていることが確認された。これらの変化に適応した入浴空間の平面計画が今後の重要な課題であり, ひきつづき, 第2報でとりあげる.
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