本研究は, コロナ禍以前について, 日本が貿易を行っている主要国を対象に, 取引費用理論とネットワーク理論の観点から, 知識労働者としての内外の在留者を通じた国際的な人的交流と経済取引が相関関係にあることを公開データに基づいて定量的に明らかにすることを目的とする。これにより, 知識労働者による国際的な人的交流が貿易取引の発展に寄与しているかどうかを示す。
本研究では, 国境を越えて知識を伝播する知識労働者間の交流のネットワークによって形成された社会関係資本が, 越境取引での不確実性や取引費用を低減することで, 企業や国の活動領域を決定し, 国際経済取引の発展に寄与することを想定する。その上で, 先行研究での課題を踏まえ, 特定の在留資格を持つ海外在留邦人と日本在留外国人, および付加価値貿易額に着目した検証を行う。
検証の結果, 知識労働者による国際的な人的交流が経済取引での付加価値創出に寄与している経路を確認するとともに, とりわけ日本と経済的に類似した先進工業国との貿易において, 人的交流が寄与する程度が大きい可能性があることが明らかとなった。そして, 貿易資源の賦存状況の他, 経済規模や産業構造, 貿易構造や形態等の国ごとの異質性等を同時に検討することの重要性を, 人的交流というミクロな視点を通じて示した。
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