従来、全集をはじめとして単行本には全く収録されず、研究や批評も皆無であった「筆記原稿」(「小説公園」一九五七年九月)を発掘し、その「不敬」性について、戦時下・占領期・同時代の検閲をめぐるメディア(「朝日新聞」・「小説公園」・「真相」・カストリ雑誌)の様相を参照しながら検討した。「筆記原稿」は、表層のレベルで敗戦後に創出された規範に従いながらも、「無意識」下では敗戦前と同じように天皇・皇族を奉じる力がいまだに人々を規定している様態をメディアと皇族の関わりを軸にえがいた小説だといえる。想像力を奪いとる
自己検閲
の記憶が刻まれた装置を小説のなかで想像力を喚起する記号として反転させ、天皇・皇族に対する議論が減少し(自己)規制されていく時代のなかで、継続する
自己検閲
を前景化する装置として利用してみせたのだ。
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