長野県産のチョウ類149種について, 過去から1997年までの任意に発表された分布データ等を用いて, 1980年〜1997年の最近18年間における市町村区域を基準とした個体群に対し, レッドデータブックの新たなカテゴリー(環境庁, 1997)に基づく定量的な判断によるレッドデータ該当種の選定を試みた.その結果, 定量的な判断に用いる個体群の減少率は, 調査の際に見逃す率を考慮して算出すべきであり, 見逃す率は, 森林性の種と草原性の種とを比較したとき, 森林性の種で有意に高かった(P<0.10).また, 見逃す率は, 草原性と森林性の種ごとに過去と最近の分布データ件数に変動が少ないか, あるいは増加傾向にある種について, 個体群減少率の平均をとるか, 分布データ件数について過去に対する最近の変動率(本論では, 1960年〜1989年の30年間の分布データ件数の年平均と1990年〜1997年の8年間の年平均の比較で100%以上の種)と個体群減少率との一次回帰式から求めるのが妥当であると考えられた.個体群減少率は, 移動性の強い種や調査不足の種では高く, 一方, 市町村区域のような比較的広い範囲内では生息地の減少が表現されないため低く評価されたりする.そのため, 定量的な判定結果により種を選定する場合には, 不安定な要因を考慮して, 最終的には定性的な判断を加える必要がある.
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