本稿では,地方の産業集積地域で開催される見本市(地方開催型見本市)に着目し,見本市の参加主体である出展者および来場者の多様な関係性構築の状況について検討した.見本市のような,非日常的に主体が集合する経済的現象は,暫定的クラスターと呼ばれ,イノベーションに繋がる知識や情報の獲得の面で注目されている.事例とした諏訪圏工業メッセは諏訪地域内の精密微細加工技術を有した企業が多く参加する見本市である.2002年の初開催以来,開催規模は順調に拡大しており,諏訪地域内の企業にとって重要なイベントとして認識されつつある.出展者が見本市に参加する目的には,新規取引先の獲得,自社の知名度の向上,来場者・出展者との情報交換などがある.特に諏訪地域内の十分な営業力を有していない中小企業は,見本市の役割を重視している.彼らは既存の取引先を招待し接待を行うなど,見本市を長期的な受注関係・信頼関係の構築の機会としても利用している.さらに,商社機能を有した企業や,海外との販路開拓に成功した企業によって,域外の市場の情報やニーズが諏訪地域内に導入されうる点も見本市の利点である.このように見本市で得られた域外市場の情報や知識が,産業集積内の勉強会や研究会などの水平的関係性を通じて,域内企業に波及されることにより,産業集積のグレードアップの可能性が考えられる.
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