本稿の課題は、名古屋鉄道が開発した観光施設のなかで、特に博物館明治村(以下、明治村と記す)の事例を
中心にとりあげて、その建設の過程、開設の意義、開設後の施設運営のあり方について明らかにすることである。
明治村は、名古屋鉄道による経営事業の多角化、観光および文化における開発事業の一環として、1965年 3 月18
日に開設された。もともとは、1960年に名古屋鉄道副社長(当時)土川元夫が、旧制高校時代の同級生である東
京工業大学教授(当時)谷口吉郎との間で、壊されていく明治建築の移築・保存を目的とする野外博物館の構想
について話し合ったことがそのきっかけであった。1963年 9 月から移築建築工事が着手され、1964年11 月 4 日に
は博物館法による博物館登録が認可された。翌1965年 3 月18日には開村式が行われ、移築建造物14件を公開展示
し、財団法人博物館明治村は野外博物館として開村した。明治村の開村は、観光のみならず社会的・文化的意義
をもつものであり、文化的・学術的事業と観光開発事業との融和がとれた事業計画・展開という点に、名古屋鉄
道における観光開発事業の特色の一端を垣間見ることができるといえよう。
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