筆頭著者はこれまでに,2004年から2014年に日本で発生した風水害による死者・行方不明者 (犠牲者)の発生状況によるデータベースを構築しており,この間の犠牲者712人(以下「2004- 2014」)について分類を行ってきた。本研究では,2016年 8 月に北日本を襲った台風2016年10号(以下「T1610」)による犠牲者と,「2004-2014」を比較した特徴について論ずる。この台風により,岩手県 ,北海道で 23人が 死亡,4人が行方不明となった。「T1610」犠牲者の特徴としては以下が挙げられる。 1 )犠牲者の74%が洪水によるものであった。 2 )犠牲者の78%が65歳以上の高齢者であった。3 )犠牲者の30%が避難行動をとったにもかかわらず死亡したものであった。1 ) の洪水による犠牲者率74%は,「2004-2014」より高い。「T1610 」は「山地河川洪水災害」と言えるが,このタイプの災害では「洪水」犠牲者が多くなる傾向にある。 2 )の犠牲者中の高齢者率 78%も,「2004-2014」に比べて高い。このうち9人は高齢者福祉施設内で死亡しており,高齢者の避難行動の難しさが顕在化した。 3 )の避難行動ありの犠牲者率30%も「2004-2014」に比べて高い。避難行動のタイミングについてさらに検討していく必要がある。一方,岩手県岩泉町安家地区では,11世帯が倒壊したにもかかわらず,死者は1人にとどまった。この地区では,多くの住民が積極的な避難行動をとったことにより,被害を軽減した可能性がある。
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