沖縄県における末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教会)の受容の地域的特性について、
那覇都市圏
と名護市、宮古島の当教会事例を中心に考察した。2014年現在、日本における当教会の立地総数は279となっている。各都道府県における立地分布、教会数の概略は、都道府県別の人口にほぼ伴っており、一部を除いて大きな偏りは見られない。ただし、当教会の立地が1カ所のみの山梨県や高知県、12カ所(調査開始時)と多数の当教会が立地する沖縄県や、8カ所の北海道札幌市などの例外も認められる。また、全国総人口と沖縄県の県民人口を基に沖縄県における各キリスト教派信徒数の特化係数を求めると、キリスト教全般138.8、日本カトリック117.4、日本基督教団127.2、末日聖徒イエス・キリスト教会295.3となる。そこで本報告では沖縄県を事例に、なぜ当教会の立地や教会員数が沖縄県に多いのか、特化しているのかの考察を試みた。その際、2007年に行った現地調査で以下の作業仮説をたて、2014~15年にアンケート調査により検証した。なお、現地調査は当教会那覇ワード(当時名)、那覇東ワード(当時名)、名護支部(当時名)、宮古支部において、アンケート調査は現那覇第二ワード、宮古支部で行った。
(1) 沖縄における米軍基地の軍人・軍属教会員の影響や、かつての米国統治の影響がある。
(2) 祖先祭祀などの沖縄の民俗宗教と、当教会の教義がマッチすることがある。
(3) 門中組織など親族関係がかたく、模範的な人物などが教会員になるとその影響が広がる。
(4) 那覇市などの本島部は復帰後から人口増が続き、自然人口増も高く、改宗者や第二世代の教会員の増加があった。
(5) 県民性や個人のアイデンティティー、宗教的霊性の問題など。
まず、(1) については、沖縄県における当教会の伝道は米軍基地の軍人・軍属教会によって開始され、主導された事実がある。また、アンケート結果と聞き取りにより、1960年代までは影響がかなりあったことが窺える。しかし、現在においては影響がないと回答する教会員が多い。(2) は特に沖縄県での教勢の伸びの大きな要因と考えられる。当教会はキリスト教他教派にはない教義の独自性があり、沖縄の民俗宗教と重なる部分がある。教会教義と民俗宗教に関するアンケートの質問項目への回答結果からも判断できる。(3) は本土の当教会に比しての傾向はみられる。(4) は那覇第二ワードの回答者の多くが
那覇都市圏
内の出身で、第二世代も回答者の半数を占めることから、教勢拡大の要因として考えられる。ただし、人口減が続く宮古島は若い教会員の転出なども考えられ苦労している。(5) は聞き取り調査や教会員の口述史などから窺えるが、アンケート結果分析からは結論に至らない。ただし、総じて上記各作業仮説には妥当性が認められる。
以上、沖縄県における末日聖徒イエス・キリスト教会は米軍関係の教会員を中心として始動され、その後、日本人教会員数は主に (2) ~ (5) の要因が重なり教勢の伸びを示したと思われる。なお、今後は鹿児島県の当教会における調査と本報告との比較考察を進めたい。
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