【目的】
トレッドミル歩行(以下TM歩行)は「省スペースで連続歩行が可能であるという理由から、片麻痺患者や脊髄損傷患者などに多く利用される評価・練習方法である」と文献にある。最近、TM歩行の研究もよく見受けられる。そこで今回上り勾配角度をつけたTM歩行が平地歩行時に及ぼす歩容の影響と、歩行speedの関係について、独歩獲得に向けて治療を行なう脳卒中片麻痺患者一症例を基に考察したのでここに報告する。
【対象及び方法】
1、対象
対象は平成15年3月8日右視床出血、左片麻痺にて入院、7月17日自宅退院し現在外来フォロー中の62歳男性である。Brunnstrom stageはU/E-IV、L/E-IV,F-V。歩容の特徴として左骨盤はリトラクトしており、麻痺側立脚期は全足底接地から始まり常時膝過伸展での支持。麻痺側遊脚期は分回しが見られる。上記症状により屋内は裸足歩行可能だが、屋外は一本杖使用である。
2、方法
患者主観及び研究者側の歩容の観察から踵接地が行なえる様歩行speedを微調節し、上り勾配角度については本患者の問題となる立脚初期からの膝過伸展が出現しない様、設定・実施する。(平均歩行時間6.7±1.7分、平均歩行速度0.5±0.2km/時、平均勾配7±2%)施行時間はBorg scale0から0.5の範囲とし、TM施行中は各々体幹正中位、膝の選択的運動が行なえる様介入をする。そしてTM歩行開始前後の10M歩行speed、歩容を比較評価する。期間は週2回、4週間実施した。使用した機械は酒井医療株式会社Tredmillである。
【結果】
TM歩行の効果として平地歩行時、麻痺側立脚初期から中期にかけて膝屈曲の出現、足背屈角度の増加が見られ、初期においては踵接地が若干見られる様になった。麻痺側遊脚期は分回しが若干改善図られる。その他歩行speedの短縮が図られ、骨盤のリトラクトも改善傾向にあった。歩行speedの短縮については記載の通りである。
研究前4/2→19秒24歩
後4/30→15秒20歩
改善出来なかった点では、立脚中期から後期にかけての膝過伸展である。
【考察】
上り勾配歩行は重力の影響により後下方の力が生じる。よって足関節を中心とした姿勢制御が身体を前上方へ推進し、その力を利用して立脚時本患者の問題となる足底屈、膝過伸展を防いだ。その事により歩容に於いては立脚時、膝関節屈曲・足関節背屈を促し、二次的に股関節の伸展・骨盤のプロトラクトの制御も行なえたのではないかと推測する。遊脚時は斜面にする事で股足関節の動きが見られ分回しの必要が無くなったのではないかと推測する。又TM歩行speedを遅めにしたことで遊脚期では、減速機能としての膝のコントロールが必要になり相対的に足部の動きを出現させた事、立脚期では患側立脚期が長くなる事で膝の選択的運動・安定性に関与出来たのではないかと考える。そして歩行speedに於いて、同一速度での企画化された歩行条件下のTM歩行によりCentral pattern generator systems(以下CPGs)が賦活されたのではないかと考えられる。又TM歩行は上肢での支持物も存在し、複雑な外部環境を取り除く事で安心し、積極的にCPGsを賦活出来た事も改善点として挙げられるのではないか。又今回研究に協力して頂いた患者には失調症状があり、小脳機能としてリズミカルな歩行運動Patternの学習記憶にも効果があったのではないかと推測する。
【まとめ】
トレーニング装置としてTM歩行は多くの患者に利用される運動療法の一つである。しかし、TM歩行のspeedや勾配角度を変化させる事によって運動制御の仕様が異なってくる事を改めて実感した。又今回研究を行なうにあたり患者の疲労感の存在や、負荷の設定で曖昧な点を残した。今後、歩行練習や歩行分析にTM歩行を用いる事も検討しつつ、上記問題点や症例数を増やす等更なる研究の向上に努めていきたいと考える。
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