AIやIoTの社会実装が始まるなか、生産、移動、金融、物流、医療、介護、教育など人間社会の様々な分野で技術革新に伴う構造変動が進みつつある。産業構造、労働市場、社会制度や組織などはもちろんのこと、AI技術が身の回りの機器に内蔵され連結・連携し機能するAIネットワーク化が進展することで、人々の暮らしは大きく様変わりしようとしている。
このような大規模な変化に適確に対応するためには、目先の変化だけでなく、道具や機械を使用することを通して進化してきた人間の来し方や行く末を見据える文明論的視座をもつことが重要である。科学技術は文化として人間の価値創出を促し、人間社会の成熟と未来創造を担うものである。技術文明の進展のなかで、道具や機械を利活用することを通して、環境との間に構築してきた第二次環境ともいうべき文明創造の過程で、人間が獲得してきた技能や能力、また、技術の栄枯盛衰のなかで失っていった技能や能力に注目する必要がある。と同時に、技術文明の創出を通してあらゆる生き物の頂点に立つ人間が担うべき地球環境の将来に対する責任を全うするために、できることは何か、また何を為すべきかなど、向かい合うべき根本的な問いが一方にあり、他方、社会の急激な変動への迅速な対応もまた喫緊の課題となっている。
本稿では、AI時代の技術文明という視座から、まず、環境適応のために文明という装置を生み出しつつ、その過程で自らも変化変容を遂げている人間に焦点を当てる。そして、科学技術を価値創出やイノベーションを可能にする文化へと醸成していくことの意義について考察する。
第二に、前近代から近代すなわち17世紀末から18世紀末にかけての第一次コミュニケーション革命と、近代からポスト近代すなわち20世紀末から現在にかけての第二次コミュニケーション革命に着目し、技術文明とコミュニケーションの変化を通して、AI時代を生きる人間の状況や社会の変貌を捉える視点を提示する。
第三に、社会実装を通して大きく組み変わりつつある社会の根本構造の変化に対応するため、個人、自律、主体など近代社会システムを成立させてきた基本概念や、社会設計の基盤自体を見直す必要性、さらに、イノベーションのための人材養成および人間教育を推進していくために考慮すべき諸点を論ずる。
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