【目的】
上腕骨外側上顆炎の治療の一つにテニスバンドの装着があり,臨床の中で多く使用されている。テニスバンドは,手関節伸筋群の筋腹に圧迫を加えることにより,外側上顆にかかる牽引力を減少させる目的で開発されたものであるが,その効果に関する実験的研究はあまりなされていない。本研究は,テニスバンドを使用するとともに筋への圧迫力を変化させ,テニスバンドの使用によって,テニスのバックハンドストローク時の
長橈側手根伸筋
及び総指伸筋の筋活動に与える影響を,筋電図学的に検討することを目的とした。
【方法】
被験者は上肢の外傷,上腕骨外側上顆炎の既往のないソフトテニスの経験者である男性8名(平均年齢: 20 ± 0.8歳)とした。被験筋は,利き手の
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および総指伸筋の筋腹を標点とした。電極は,disposable電極(ブルーセンサー: Mets社製,Denmark)を使用し,
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及び総指伸筋の筋腹に十分な処理を行ったのち,皮膚抵抗10kΩ以下であることを確認し電極を貼付した。被験者の大腿中央の高さにつるしたボールを,バックハンドストロークで打ち,テニスバンドを装着しない場合,テニスバンドを装着した場合にて被験筋のelectromyography(以下,EMG)を記録した。テニスバンド装着では,装着しただけのもの,テニスバンドを1kg,2kgの各々の重さで引っ張り固定したものの4条件を各5回ずつ測定した。またインパクトの瞬間の時間を同定するため,ラケットに加速度センサーを貼付した。得られた活動電位,および加速度センサーによる信号は,Telemyo2400(Noraxon社製,Scottsdale)を用いてパーソナルコンピュータに取り込んだ。サンプリング周波数は1500Hzとした。
全波整流後,インパクトの瞬間の-1秒地点から1秒地点までを0.2秒間隔で計10ポイントに分割し,各ポイントの筋電積分値(integrated electromyography: 以下,IEMG)を算出した。最大等尺性収縮時のEMGの中心位置から前後1秒間隔のIEMGを算出した。これら両者のIEMGは単位時間あたりに換算した。そして,バックストローク時のIEMGを最大収縮時のIEMGで補正し,相対的IEMG(%IEMG)とした。
インパクトの瞬間の前後1秒間の筋電計の波形から高速フーリエ変換を用いて中間周波数(mean power frequency: 以下MPF)を算出した。得られた%IEMGおよびMPFはテニスバンドを装着しない場合,テニスバンドを装着しただけの場合,テニスバンドを1kgの重さで引っ張った場合,テニスバンドを2kgの重さで引っ張った場合の4条件で比較した。
【説明と同意】
研究の実施に先立ち,広島国際大学の倫理小委員会にて承認を得た。なお,すべての被験者に,研究の目的と内容を説明し,文章による同意を得たうえで計測を行った。
【結果】
インパクトの瞬間から前後1秒間の
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及び総指伸筋の4条件の%IEMGに有意な差はなかった。
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において、テニスバンドを2kgの重さで引っ張り装着した条件でのMPFは,テニスバンドを装着しなかった条件とテニスバンドを装着しただけの条件のMPFより有意に小さかった。
【考察】
先行研究では,筋収縮力が50%以上の場合,圧迫により有意な筋積分値の減少を認め,圧迫力と筋収縮力が増加するに従い,筋活動の減少は大きくなったと報告した。先行研究と異なる結果が得られた原因として,課題動作の違いがあげられる。先行研究では,等尺性収縮における圧迫力の違いが筋活動量に変化を及ぼすことを報告しており,本研究では動的な課題動作を用いたことで先行研究と異なる結果が得られた。バックハンドストロークのような瞬時に高い筋活動を必要とするような動作において,圧迫力の違いが必ずしも筋活動量の変化に影響を及ぼすとは限らないということが示唆された。
先行研究では周波数解析における平均周波数の上昇は,運動単位の動員と放電頻度の上昇を意味していると報告した。本研究より2kgの重さで圧迫した際にMPFが有意に低下した結果から,
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への強い圧迫は運動単位の活動を減少させたことが推測される。また,筋線維伝導速度もMPFに影響を及ぼす因子であり,筋長が長くなると筋線維伝導速度は低下し,周波数も低域化すると報告されている。このことから圧迫することにより筋が伸張され,その結果として筋長が長くなり筋線維伝導速度が低下し周波数が低下したことも推測される。よってテニスバンドの使用は,筋活動の量的な変化は認められないが,質的な変化は認められることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
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の圧迫によりMPFが有意に低下したことから、運動単位の動員の減少や筋線維伝導速度の低下などの質的な変化が生じることがわかった。
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