通称「大阪都構想」を推進する論拠の一つとして、大阪市(または大阪市と堺市)が分割されることによって自治体人口が「適正規模」に近づき、結果として財政効率化が可能になるという議論が存在する。中規模自治体において1人あたり歳出が最小化されることを示した先行研究は複数存在するが、適正規模を求める分析手法やその解釈には様々な課題があり、また多くの研究は自治体を「合併」するケースを想定して行われてきたものであるため、大阪都構想のように自治体を「分割」するケースにその知見を適用できるのか否かは明らかでない。本研究では、我が国の自治体人口の適正規模を定量的に求めようとした先行研究のレビューを行い、その手法や結果の比較、課題の整理等を通じて次のような理解を得た。1人あたり歳出が小規模自治体において逓減し、大規模自治体において逓増に転ずる「U字型」の傾向を観察した研究例が多いものの、分析のアプローチによってはU字型の関係がみられない(つまり最適な規模が存在しない)ことを示した研究も存在する。また、逓減や逓増の傾向が生ずる「メカニズム」には不明確な点も多いことから、合併・分割等による人口規模の操作が財政効率を改善し得るのか否かについては慎重な留保が必要である。とりわけ、大規模自治体における歳出の逓増傾向が、複数の先行研究が示唆するように「都市化」の効果によるものであるならば、適正規模論を自治体の「分割」効果の導出に適用することは困難であると考えられる。
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