本研究では、中国人日本語学習者による日本語の撥音に先行する母音の発音を、(1) 音響分析、(2)音韻範疇の推定、(3) 超音波撮像による調音運動の観察の三つの手法を用いて詳細に検討した。その結果、日本語の撥音に先行する母音/ ア/、/ イ/ に比べ、/ ウ/、/ エ/、/ オ/ の習得が困難であることが明らかとなった。難易度の結果に関しては先行研究に類似するが、今回はより複雑な音環境であるため、日本語の単母音が単独で発音される際に生じる二重母音化の問題および頭子音が先行しない場合とは異なる音声的特徴を示した。
また、多くの音環境において、初級者と上級者の間で発音に顕著な差異が観察され、上級者の発音は日本語母語話者に近づいており、習得の進展が示唆された。初級者では、単独で発音される際に見られなかった母音間の混同や、中国語の母音に類似した発音がより多く見られ、特に/ ウ/ や/ エ/は中国語の母音に近い傾向を示した。一方で、頭子音/sy/・/zy/ と/ ウ/ が同時に出現する特定の音環境では、母音の音色が非常に頭子音の影響を受けやすく、上級者においても、母音間の混同や、母語話者とは異なる発音のバリエーションが観察された。
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