2023 年 27 巻 1 号 p. 13-26
南琉球宮古島の諸方言には語頭に鼻音連続がみられ,宮古島方言の一つ池間方言には摩擦ノイズを伴う無声の鼻音が存在する。本稿では池間方言話者2名のreal-time MRI資料を用いて鼻子音の調音を検討した。その結果,無声鼻音で始まる語頭の鼻音連続[n̥n](無声の[n]に続く有声の[n])は[(n)n]に比べ口蓋帆の下降が大きい傾向がみられ,[m̥m](無声の[m]に続く有声の[m])は後続母音が同じ語の[m]に比べ口腔領域が広い傾向が認められた。どちらも声道内に取り込む呼気量を増加させ,気流のノイズを強める効果をもつと考えられる。[m̥m]と[n̥n]では口蓋帆の下降と口腔領域の拡大のいずれか自由度の高い調音器官を主に用いていると考えられる。また語末の/n/の調音は先行母音と同化する調音になっており,日本語標準語に関する近年の報告との共通点がみられた。