両棲類と温血動物の胃筋層における内在神経要素の分布様式について, 光顕並びに電顕的に観察し, 膜電位などとの相関からその役割について考察した.cholinergic neuronないしnerveの染色は, AchE inhibitorの閾濃度を応用したthio-choline法 (Karnovsky & Roots) によった.また, adrenergic nerve elementの光顕観察はcatecholamine螢光線維についておこなった.以下はガマの胃における成績を中心に述べる.
1.ガマの胃筋層はAchE陽性の神経要素が極めて多く, cholinergic innervationを強く受けているが, 食用ガェル, ウサギ, ネコではこれらの神経要素はかなり乏しい.
2.ガマ胃平滑筋の細胞膜電位値は部位によって異なる.すなわち, 噴門側は幽門洞部よりも, 小彎側は大彎側よりもそれぞれ低い膜電位値を示した.
3. 組織学的には, 噴門側は幽門洞部よりも, また, 小彎側は大彎側よりもそれぞれAchE陽性の神経細胞および神経線維が密在していた.すなわち, 膜電位値の分布 (又は興奮性) はAchE陽性の神経要素の分布密度に対応していた.従って, ガマの胃平滑筋では, 膜電位の分布を規整する神経分布像はcholinergic fiberであろうと考えられた.
4. ガマの胃壁内には, カテコラミソ螢光を発する神経節細胞は認められなかった.カテコラミン螢光線維は, 通常AchE陽性の神経節の周りを囲んで存在するか, または血管壁周囲をとりまいて認められた.
5.カエル胃の筋線維間に分布するカテコラミン螢光線維は, ネコの胃などに比べるとかなり乏しい.従って, カエル胃では, 平滑筋層に対するアドレナリン性線維の直接の支配は存在しないものと考えられた.またカエル胃では, 5-HTに由来する螢光線維は認められなかった.
6.一般にどの動物の胃においても, 筋層間神経叢内の神経節では, cholinergic neuronに対して壁外性のニューロンに由来するノルアドレナリン性線維がシナップスを形成することがうかがわれるが, 電顕的にも同様の所見が認められた.結局胃運動の抑制機構はAuerbach神経叢におけるシナップス機構に求められる.
7.神経一筋接合部はガマでは著しく発達しているが, ネコ, ウサギなどでは神経終末も少なく, かつ, 接合部間隙も大きい.筋一筋接合様式としては, イヌやウサギでは細胞間橋様の突起像やNexus様構造が認められるが, ガマではこれらの接合像は殆んど認められない.少くとも三重膜構造を示す接合像は認められなかった.従って, ガマでは機能的には多数の運動単位が存在し, かつ, それらが同期して活動する程度はかなり低いものと考えられた.
8.ガマの神経終末ないし軸索膨大部に含まれるシナップス小胞は, 直径が450~700Åの無顆粒小胞, 1000~1500Åの大型顆粒小胞および少数ではあるが, 直径350~600Åの小型顆粒小胞に分類された.これらのシナップス小胞の性質ないし役割について考察した.
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