社会課題の解決の手段としてスポーツを活用する開発のためのスポーツ(Sport for Development:SfD)が21世紀に入り注目を集めた。しかし、2017年に国連の当該分野の専門部署が閉鎖されて以降、国連からSfD分野における明確な指針は提示されていない。その状況の中、企業のSfD分野への参入は拡大しており、SfD分野における企業の影響力が増している。
本稿では、2019年より日本のプログラムが本格的に開始されているローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団を事例に、企業から主要な資金提供を受けるSfD NGOの実態を明らかにし、現地のプログラム形成に及ぼすドナー企業の影響を分析する。
2015年に国連が持続可能な開発目標(SDGs)を提唱して以降、先進国企業による経営戦略やCSR戦略はSDGsを意識したものとなった。その傾向はSfD分野にも波及しており、企業のドナーとしてのSfD領域への参入が増加している。ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団は事業の約7割の資金を企業や社会投資家からの資金提供で運営しており、2017年の三菱東京UFJ銀行のグローバルパートナー締結に伴い、2つのSfDプログラムが日本で展開されている。
国際的なSfD NGOが参入することにより、グローバルで同財団と連携のある企業や他のSfD NGOが日本のプログラムに参画し、新規にSfD分野に従事する企業や団体の開拓に成功した。しかしながら、同財団の日本進出の理由や国内プログラムのデザインは、必ずしも、現地の社会課題を中心に据えて作成されたデザインではなく、パートナーであるグローバル企業の経営戦略やCSR戦略が大きく影響を与えている。また、企業の影響力は、政策立案から市民社会への啓発まで今後、益々影響を及ぼすことが示唆された。
コーポレートドナー型のSfD NGOの国内進出が加速する前に、日本のコンテクストを考慮し、どの社会課題をどのようにスポーツで取り組むことが最適であるのか、指針を示すことが必要であると指摘し結びとした。
抄録全体を表示