岩手県北部で保護されたイヌワシ幼鳥に電波発信機を装着して放鳥し,その後の移動を追跡調査した。この個体は2002年6月30日に岩手県大野村で衰弱,保護された当年生まれの幼鳥(雌)で,保護施設で約1か月間飼育して体力を回復させ,8月8日に出生地と考えられる営巣場所付近で放鳥した。放鳥後は原則として毎日追跡し,複数点からの方向交差により位置を求めた。また可能な場合は目視して位置を確認した。この個体は放鳥後8月15日までは放鳥地点付近にとどまっていたが,16日には放鳥地点から西に8.1kmの山間地に移動した。また8月21日に2.1km北へ移動し,翌日さらに北方向へ移動した後は確認がとれなくなった。その後,10月5日に八甲田山で北西方向から電波が受信され,10月8日には青森県深浦町で再び保護されるに至った。再保護地点は放鳥地点から直線で152kmであった。再保護された個体はすぐに放鳥され,自力で飛び去ったが,11月11日,発信機とともに死体で発見された。この記録は,日本のイヌワシの長距離移動を示す初めての事例であり,イヌワシ幼鳥の分散が遠距離に及んでいることを示唆するものである。
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