日本化学療法学会雑誌
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本邦において1998年から2000年の問に分離されたHaemophilus influenzaeの分子疫学解析
肺炎球菌等による市中感染症研究会収集株のまとめ
生方 公子千葉 菜穂子小林 玲子長谷川 恵子紺野 昌俊
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2002 年 50 巻 11 号 p. 794-804

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抄録

日本において1998年から2000年の3年間に, 「市中感染症研究会」に参加した187施設より当研究室へ送られてきた総計6,692検査材料が本研究の対象とされた。前複例を除く4, 030例のなかで多かった疾患は, 急性中耳炎 (n=1, 425), 急性上気道炎 (n=961), 急性気管支炎 (n=390) であった。肺炎例も175例認められた。これらの症例からのインフルエンザ菌の分離率は30%台であった。患者からのインフルエンザ菌分離率のピークは1歳にあり, 学童期に至るまで暫時減少した。それに対し, 成人におけるインフルエンザ菌の分離率は平均10%程度であった。臨床分離の1,408株に対する分子解析にもとづく疫学研究は, われわれによるインフルエンザ菌における耐性遺伝子解析によって構築されたPCR法によって実施された。使用された4セットのprimerは次の通りである。すなわち,(i) P6膜タンパクの遺伝子,(ii) TEM-1 typeβ-lactamase遺伝子 (bla),(iii) 感性菌に見いだされるPBP3遺伝子 (ftsI),(iv) β-lactamase非産生ampicillin (ABPC) 耐性インフルエンザ菌 (BLNAR) に見出されるftsI遺伝子である。インフルエンザ菌はPCR解析の結果にもとづき, 次の6typeに識別された。(1) いずれの耐性遺伝子をももたないβ-lactamase非産生ABPC感性菌 (BLNAS, n=826),(2) TEM-1 typeβ-lactamase産生ABPC耐性菌 (BLPAR, n=81),(3) ftsI遺伝子にLys-526変異をもつβ-lactamase非産生で低レベルのABPC耐性菌 (Low-BLNAR, n=352),(4) Lys-526とさらに保存性アミノ酸配列のSer-Ser-Asn周囲に3つのアミノ酸変異をもつBLNAR (n=109),(5) TEM-1とLow-BLNAR耐性遺伝子を保持するβ-lactamase産生でamoxicillin/clavulanate耐性菌 (BLPACR-I, n=36),(6) TEM-1とBLNARの耐性遺伝子を保持するβ-lactamase産生でamoxicillin/clavulanate耐性菌 (BLPACR-II, n=4) である。Low-BLNARとBLNARに対するABPCのMIC90はそれぞれ2μg/mLと4μg/mLであった。これら耐性株ではABPCやmeropenemのそれよりも, 経口および注射用セフェム系薬の感受性が明らかに低下していた。経口セフェム系薬のなかではcefditorenのMIC90がBLNARに対して1μg/mL以下と優れていた。BLNAR株朱は1998年に3.2%, 1999年に6.6%, 2000年に13.5%へと有意に増加していた。免疫学的に未熟な小児例に対する経口セフェム系薬投与後の不十分な薬剤濃度はBLNAR株の増加の大きな要因であろうと推察された。迅速で正確な細菌検査にもとついた適切な抗菌薬の選択とインフルエンザ菌に対するHibワクチン接種が耐性菌の増加防止の上で必須である。

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