抄録
ブタを始めとする多くの哺乳動物の膀胱頸部組織標本に経壁電気刺激を加えた時に誘発される神経伝達物質を介する収縮·弛緩反応の機序についてこれまでの諸家の成果を含めて紹介する.収縮反応は膀胱体部と異なり,頸部ではアドレナリン作動性神経とコリン作動性神経を介して行われる.一方,刺激頻度依存性に増大する弛緩反応は,低頻度刺激では速やかに出現して持続の短いものであるが,高頻度刺激時には持続性である.これらの反応はアドレナリン受容体遮断薬および抗ムスカリン薬の影響を受けず,ブタの標本では低頻度刺激下の弛緩はnitric oxide(NO)合成酵素阻害薬であるNG-nitro-L-arginine methylester(L-NAME)で完全に抑制される.一方,高頻度刺激下にみられる早期の反応はL-NAMEで消失するのに対し,遅い弛緩反応はL-NAMEの影響を受けない.ブタだけでなくイヌでもL-NAME抵抗性の神経性弛緩反応が認められている.低頻度刺激によるL-NAME感受性の弛緩に一致して,ブタ標本ではcGMP量の増加がみられる.低頻度神経刺激下に遊離されたNOが組織中のcGMP量を増加し,一過性の速い弛緩を引き起こしたと考えられる.他方,L-NAME抵抗性の弛緩反応にはNO以外の伝達物質が関与すると考えられるが,ペプチドでもK+チャネル開口物質でもないことがこれ迄の研究で明らかにされている.ブタ膀胱頸部ではこの反応にcAMPがセカンドメッセンジャーとして働く可能性が認められたが,この伝達物質については今後の検討課題である.神経性弛緩反応だけに限っても,その機序に不明な点が多く,動物種,性別による相違,ヒトの膀胱頸部機能調節の役割など検討すべき問題が多い.神経性調節の更なる解明が,下部尿路疾患の病態を明らかにし,新しい治療薬の開発に結びつく事を期待している.