日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
121 巻, 5 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
ミニ総説号「下部尿路機能研究の最近の進歩:基礎研究を臨床応用に繋ぐ」
  • 吉村 直樹
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 290-298
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    膀胱と尿道からなる下部尿路は蓄尿と尿排出の2つの相反する機能を司り,その機能は,末梢および中枢の神経路を介して複雑に制御されている.まず,蓄尿反射は,主に脊髄レベルの反射によって制御され,交感神経(下腹神経),体性神経(陰部神経)の興奮によって膀胱の弛緩と尿道の収縮が引き起こされる.そして,尿排出反射は,脊髄から脳幹の橋排尿中枢を経由する反射経路によって引き起こされ,副交感神経(骨盤神経)の興奮がアセチルコリンとATPによる膀胱収縮とnitric oxideを介する尿道弛緩を惹起し排尿が起こる.そして,これらの反射は,骨盤神経を経由する有髄Aδ求心線維および無髄C求心線維のうち,Aδ線維を介して引き起こされる.また,脊髄より上位の中枢はこれらの神経経路に対するコントロール機構として働いている.そして,Pseudorabies virusを用いた神経標識の動物実験で,脊髄から大脳皮質までの多くの部位が排尿に関連していることが示されている.また,ドパミン,セロトニン,ノルエピネフリン,GABA,グルタミン酸などの種々の伝達物質が,脊髄とその上位中枢で排尿をコントロールしている.したがって,種々の末梢,中枢の神経路の障害や疾患および薬物投与が,頻尿,尿失禁,排尿障害などの下部尿路の機能異常を引き起こす.
  • −Non-adrenergic, non-cholinergic神経性弛緩反応を中心に
    鵜飼 洋司郎, 野田 久美子, 戸田 昇
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 299-306
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    ブタを始めとする多くの哺乳動物の膀胱頸部組織標本に経壁電気刺激を加えた時に誘発される神経伝達物質を介する収縮·弛緩反応の機序についてこれまでの諸家の成果を含めて紹介する.収縮反応は膀胱体部と異なり,頸部ではアドレナリン作動性神経とコリン作動性神経を介して行われる.一方,刺激頻度依存性に増大する弛緩反応は,低頻度刺激では速やかに出現して持続の短いものであるが,高頻度刺激時には持続性である.これらの反応はアドレナリン受容体遮断薬および抗ムスカリン薬の影響を受けず,ブタの標本では低頻度刺激下の弛緩はnitric oxide(NO)合成酵素阻害薬であるNG-nitro-L-arginine methylester(L-NAME)で完全に抑制される.一方,高頻度刺激下にみられる早期の反応はL-NAMEで消失するのに対し,遅い弛緩反応はL-NAMEの影響を受けない.ブタだけでなくイヌでもL-NAME抵抗性の神経性弛緩反応が認められている.低頻度刺激によるL-NAME感受性の弛緩に一致して,ブタ標本ではcGMP量の増加がみられる.低頻度神経刺激下に遊離されたNOが組織中のcGMP量を増加し,一過性の速い弛緩を引き起こしたと考えられる.他方,L-NAME抵抗性の弛緩反応にはNO以外の伝達物質が関与すると考えられるが,ペプチドでもK+チャネル開口物質でもないことがこれ迄の研究で明らかにされている.ブタ膀胱頸部ではこの反応にcAMPがセカンドメッセンジャーとして働く可能性が認められたが,この伝達物質については今後の検討課題である.神経性弛緩反応だけに限っても,その機序に不明な点が多く,動物種,性別による相違,ヒトの膀胱頸部機能調節の役割など検討すべき問題が多い.神経性調節の更なる解明が,下部尿路疾患の病態を明らかにし,新しい治療薬の開発に結びつく事を期待している.
  • 吉田 正貴, 稲留 彰人, 村上 滋孝
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 307-316
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    下部尿路機能は自律神経によって制御を受け,中枢,末梢において様々な神経伝達物質によりその機能を営んでいる.近年,我々は主に脳で使用されているマイクロダイアリシス法を等尺性実験に応用することにより,神経伝達物質の回収を行い,尿路平滑筋の収縮や弛緩とそれに関与する神経伝達物質(acetylcholine: ACh, noradrenaline: NA, adenosine triphosphate: ATPおよびnitric oxide: NO)の定量と薬理学的解析を行ってきており,以下の検討結果を得た.1)尿道機能を司るアドレナリン作動神経とNO作動神経は単一で作用しているのではなく,NO作動神経から放出されるNOはアドレナリン作動神経からのNAの放出量を抑制的に調節していた.また,アドレナリン作動神経より放出されたNAはNO作動神経の神経終末に存在するα1受容体を介してNOの放出を抑制的に,α2受容体を介して促進的に調節しているものと考えられた.2)ヒト膀胱において,NO作動神経から放出されるNOは直接膀胱の弛緩作用は有さないが,コリン作動性神経に作用して,AChの放出量を減少させることにより,特に蓄尿期に膀胱の弛緩や活動性の抑制に関係しているものと考えられた.3)ヒト前立腺においては,神経型NOS活性の低下によるNO放出量の低下が,加齢や前立腺肥大症に伴う下部尿路症状を有する患者でみられ,これが前立腺尿道部のダイナミックな閉塞の一因となっている可能性が推察された.4)加齢に伴いヒト膀胱収縮におけるコリンおよびプリン作動性成分の関与は変化し,ACh放出量の低下によるコリン作動性成分の減少と,ATP放出量の増加によるプリン作動性成分の増加が示唆された.これらの変化と加齢に伴う過活動膀胱や低活動膀胱との関係が示唆された.これらの検討結果は,今後病態の解明や新しい薬剤の開発に寄与するものと考えられ,我々の研究が臨床応用に繋がることを期待している.
  • −尿失禁症の病態治療に向けて−
    寺本 憲功
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 317-324
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    アデノシン三リン酸(ATP)感受性カリウム(K+)チャネル(以下,KATPチャネルと略記)は膵臓β細胞,心筋,平滑筋等の細胞に広汎に分布し細胞内代謝によりチャネル開口機構が制御され細胞の膜電位の維持に深く寄与している.平滑筋細胞においてKATPチャネルは静止膜電位の維持や筋緊張の維持および弛緩機序に関与していると考えられている.また膀胱平滑筋の静止膜電位は,他の平滑筋細胞に比し比較的浅くこのチャネルの開口を介して筋弛緩に直結する膜過分極反応が惹起すると考えられる.これまでに開発されてきたKATPチャネルを標的イオンチャネルとするKATPチャネル開口薬は,膀胱平滑筋の弛緩により不安定膀胱の治療効果の有用性が認められているが,主に心血管系の重篤な副作用により未だほとんど臨床応用には至っていない.現在,KATPチャネル開口薬の検索においてはその臓器選択性の有無が必要不可欠と考えられるようになってきた.近年の分子生物学的手法によりKATPチャネルは少なくとも2種類の異なるタンパク質,すなわちチャネルポアを形成する内向き整流性K+チャネル(inwardly rectifying K+ channel: Kir)とスルフォニルウレア受容体(sulphonylurea receptor: SUR)より構成されることが明らかとなった.KirとSURにはそれぞれ数種類のサブタイプが存在しそのサブタイプの組み合わせが臓器によって異なりそれぞれの臓器におけるKATPチャネルの薬理学的特性を決定していると考えられる.
  • 武田 正之, 荒木 勇雄
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 325-330
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    排尿に関する情報伝達系のなかで,交感神経系の支配する臓器にはα1受容体またはβ受容体が分布している.α1受容体は尿道平滑筋,前立腺に密に分布しており,蓄尿期にはこれらの平滑筋を収縮させる.そのサブタイプのなかではα1A受容体が主たる作用を有し,α1a受容体遺伝子の発現が最も多いことが確認されている.ヒト膀胱平滑筋組織中にはβ3受容体遺伝子が強く発現し,薬理学的にもβ3受容体を介した弛緩が主体であり,ヒト膀胱平滑筋の弛緩はβ3受容体を介したものが中心と考えられている.尿意を伝達しやすい閾値の低い求心性神経が,切迫性尿失禁で重要な役割を果たしているが,こうした神経に存在すると考えられていたバニロイド受容体の遺伝子がクローニングされ,熱とpHに感受性のあるイオンチャネル(VR1,VRL1)であることが判明した.また,プリン受容体のなかでイオンチャネル型のP2X3も求心性神経に存在し,尿意の伝達に関与することが判明した.近い将来,交感神経系β3受容体活性薬,VR1,VRL1,P2X3などの選択的阻害薬が,頻尿,切迫性尿失禁治療薬となる可能性が高い.
  • 山口 脩
    原稿種別: ミニ総説号
    2003 年 121 巻 5 号 p. 331-338
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    頻尿·尿失禁を来たす代表的疾患として過活動膀胱を取り上げ,その発症機序と薬物療法について解説した.脳血管障害のような脳幹より上位の障害では,大脳全体からの脳幹排尿中枢に対する抑制が利かなくなり過活動膀胱が発症する.一方,仙髄より上位が傷害される核上型脊髄障害では,閾値の低いC-線維神経を求心路とする脊髄反射路が新しく形成されることが,過活動膀胱の発症に関与している.この求心性C-線維神経はさらに,下部尿路閉塞(前立腺肥大症など)や膀胱知覚過敏症においても過活動膀胱の発症に関与することが指摘されている.以上の神経因性機序に加え,膀胱平滑筋側にも興奮性が高まったり筋細胞間の結合が増強する変化が見られる.最も患者数が多いのにもかかわらず原因が特定されていない本態性(idiopathic)過活動膀胱においては,神経因性と筋因性の2つの機序が働いていると推定される.過活動膀胱の薬物療法として,抗コリン剤が古くから使用されてきた.口渇や便秘などの副作用を伴なうものの,過活動膀胱の発症にコリン作動性の機序が関与していることから,抗コリン剤は現在も有効な治療薬である.最近,新薬の開発において,膀胱の求心性C-線維ニューロンが注目されている.このため,ニューロキニン(NK)受容体,プロスタグランディン受容体,ATP(P2X3)受容体などが新しい薬物療法の標的となっている.また,ヒト膀胱にきわめて多く発現しているβ3受容体も有力な候補の一つである.
総説
  • 田野中 浩一, 竹尾 聰
    原稿種別: 総説
    2003 年 121 巻 5 号 p. 339-348
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    心筋細胞のイオン組成は細胞内の環境を決定する重要な因子である.心臓の虚血/再灌流障害は,再灌流時のCa2+過負荷による心筋細胞壊死により誘発されると考えられている.このCa2+過負荷は虚血時の心筋細胞内でのNa+蓄積,すなわちNa+過負荷による再灌流時のNa+/Ca2+交換系を介したCa2+流入により引き起こされ,虚血/再灌流時の心筋細胞内でのイオン恒常性の破綻と考えられる.一方,虚血/再灌流時には心筋ミトコンドリアも障害を受ける.Ca2+過負荷時の細胞質Ca2+の上昇は,ミトコンドリアへのCa2+蓄積を誘発し,ミトコンドリア機能に非可逆的な障害を引き起こす.ミトコンドリアは生命活動を支えるために必須のエネルギーを産生するオルガネラで,ミトコンドリアからのエネルギー供給なしに心臓のポンプ機能は発揮されない.つまり再灌流時の心機能回復に心筋ミトコンドリアの機能保持は必要不可欠である.この様にCa2+過負荷が細胞に障害を誘発する機序は多くの研究者により報告されている.一方,虚血心筋ではNa+の蓄積,すなわちNa+過負荷が誘発されることも知られている.しかしながら,虚血心筋でのNa+過負荷がミトコンドリア機能に及ぼす作用については明らかにされていない.従来の知見では,虚血心筋でのNa+過負荷は再灌流時のCa2+過負荷を誘発させる駆動力としての役割しか知られていない.そこで本稿では新たな研究結果による虚血心筋のNa+過負荷に関与するNa+流入経路およびNa+過負荷が心筋ミトコンドリア機能に及ぼす作用について概説し,虚血心筋保護の機序について考察する.
実験技術
  • 鳥光 慶一, 古川 由里子, 河西 奈保子
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 121 巻 5 号 p. 349-356
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    刺激に伴って神経終末より放出される神経伝達物質は,神経における情報の伝達物質,すなわち情報のキャリアとして働いていることはよく知られている.特に,シナプスの可塑的変化における放出量変化は,長い間議論の対象となっている.しかしながら,最近の研究によりこれら伝達物質が本来の情報伝達だけでなく,虚血等の脳疾患や細胞死,あるいは細胞/組織の発達·生死においても重要な役割を担っていることを示すことが明らかになってきた.したがって,放出される神経伝達物質の量的変化を測定することは,神経伝達物質の機能を解明する上で極めて重要である.さらにその放出の空間的分布が測定できれば,生理的機構の解明や疾病の診断に役立つものと考える.本稿では,代表的な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の計測について,グルタミン酸酸化酵素/西洋わさびペルオキシダーゼによる酵素反応と電極による電気化学測定法,およびこれを64チャンネルのITOプレナー電極アレイに適用したマルチアレイセンサーについての基本原理を説明するとともに,これらの方法を用いて測定したラット培養大脳皮質細胞からのカルシウム依存性グルタミン酸放出,および海馬スライスにおける刺激応答性グルタミン酸放出の空間分布計測についての測定例を紹介する.マルチアレイセンサーは,多点のグルタミン酸放出変化をリアルタイムで計測可能であり,各部位における薬液応答の相違をイメージ化するなど様々な方面への発展性が期待できる.
  • 中村 健
    原稿種別: 実験技術
    2003 年 121 巻 5 号 p. 357-364
    発行日: 2003年
    公開日: 2003/04/26
    ジャーナル フリー
    神経細胞は複数の細胞内カルシウム上昇メカニズムに加え,機能的に異なる構造を持っている.神経細胞が興奮した場合,それぞれのコンパートメントでどのようなメカニズムでどのように細胞内カルシウム濃度が上昇するのか,そのような局所的カルシウム濃度変化をそれぞれの部位でいかにして捉えるか,以下テクニカルな面を中心に解説する.
feedback
Top