2002 年 55 巻 7 号 p. 371-375
肉眼的にはびまん浸潤型を呈したが,病理組織学的には炎症性狭窄を伴った直腸癌の1例を経験したので報告する.症例は61歳男性.主訴は便柱狭小.直腸指診にて全周性の直腸狭窄を認めた.直腸造影検査にて肛門縁より約7cmの下部直腸から全長約8cmにわたる全周性狭窄を認めた.びまん浸潤型直腸癌の診断にて低位前方切除術を施行した.切除標本では直腸は約10cmにわたり全周性に肥厚・狭窄しており,病変の肛門側端に径約4.5cmの腫瘍性病変を認めた.病理組織学的には高分化腺癌であり,腫瘍細胞は筋層に達していた.腫瘍部より口側の壁肥厚部は粘膜粗造で,腸管壁全層にリンパ濾胞を伴う炎症細胞浸潤が著明であったが,腫瘍細胞は認めなかった.本症例のように炎症性狭窄を伴った大腸癌は,本邦で自験例を含めて7例報告きれているのみで極めて稀な症例であり,文献的考察を加え報告する.