2006 年 59 巻 4 号 p. 198-202
症例は53歳の男性で,排便時出血と便の狭小化を主訴に当院を受診した.直腸肛門指診にて,肛門縁より7cmの直腸前壁に2/3周性の腫瘍性病変を触知した.直腸肛門鏡による肉眼所見では2型腫瘍が疑われた.大腸内視鏡検査では浅い潰瘍底をともなう,地図状の立ち上がりの低い,易出血性の腫瘤性病変が認められた.肉眼的に悪性腫瘍は否定的で,病理組織学的に悪性所見は認められなかった.病変の形態と分布,梅毒定性および定量反応(slide法,TPHA法,FTA-ABS法)陽性などの所見より梅毒性直腸炎を疑ったが,直腸生検でのTreponema Pallidumの証明はされなかった.しかしsexually transmitted dis-ease(STD)の可能性を念頭におき,診断と治療を兼ねた駆梅療法により,潰瘍病変の速やかな治癒を確認したことで本症例は梅毒性直腸炎と診断した.