1999 年 68 巻 1 号 p. 137-145
地球環境変化に対する作物応答を明らかにするために, 高温・高CO2濃度環境がイネ群落の蒸散とガス拡散抵抗に与える影響を調査した. CO2濃度をそれぞれ365と700μL L-1に設定した2棟の温度傾斜型CO2濃度制御チャンバー(TGC)の各々に3温度区(実験期間内平均気温29.8, 30.4, 32.5℃)を設け, 水稲品種アキヒカリとIR36を栽培し, 実験に供試した. 各温度・CO2濃度処理区で8月2日(幼穂形成期)から8月22日(出穂期)まで, 乾湿球温度, 群落表面温度(Tc)と純放射量を測定し, また, ミクロライシメータ法を利用して蒸発散量(E)も測定した. Eの測定値と微気象データをもとに得られた水蒸気と熱輸送に対する空気力学的拡散抵抗(ra)は, 全処理区, 全計測期間を通じてほぼ一定値の11.7sm-1で推移した. このra値とTcおよび微気象データを熱収支式に代入し, Eおよび群落拡散抵抗(rc)を求めたところ, Eの推定値とライシメータ法による実測値は, 両品種とも非常によく一致した. 両品種のrcは全ての温度・CO2濃度処理区において, 全天日射量が500W m-2以上で最小値(rc,min)に達した. 最も低い温度区では, 高CO2濃度によって, 自然CO2濃度環境下よりもrc,minが40~49%, Tcが1.4~1.6℃増加し, Eが14~16%減少した. しかし, この高CO2濃度の影響は生育温度の上昇につれて減少した. このようなrc,minの温度とCO2濃度に対する反応は, イネのこれらの環境に対する長期の適応現象によるものと思われた。以上より, 地球の温暖化は, CO2濃度の上昇によるイネの水利用効率の向上効果を減少させることが示唆された.