日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
68 巻, 1 号
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
  • 三宅 博
    1999 年 68 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    C4光合成をC3型の作物に導入することは, 作物の生産性向上に有効であるように思われる. しかし, C3植物にもC4光合成酵素遺伝子はすべて備わっており, 葉肉と維管束鞘の組織分化も存在する. またC4植物の進化過程を調べると, C4光合成は万能ではないことがわかる. C4光合成における構造と機能の関係, 遺伝子発現, 進化に関するこれまでの知見を整理し, C3植物とC4植物の本質的な違いを考察するとともに, C3型作物の生産性向上のための条件を検討した.
  • 佐々木 良治, 山口 弘道, 松葉 捷也
    1999 年 68 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    大区画水田で水稲を散播直播栽培し, 苗立ちムラと生育・収量との関係を調査した. 苗立密度は, 56~336本m-2(平均値159本m-2, 推定苗立ち率50%)で, その変動係数は38%であった. 変動係数は生育とともに低下し, 出穂期以降16~17%となった. それは, 最高分げつ期頃の個体当たり茎数が, 苗立密度と有意な負の相関関係を示すことに起因する. 結果として, 本試験の苗立密度の範囲内では, 苗立密度の低下は収量を低下させなかった. つぎに, イネの最大分げつ力にもとづいて苗立密度の下限を理論的に解析するために, 苗立密度を播種量によって人為的に設定(24~448本m-2)した比較的均一な群落内のイネを対象に, 一次分げつの出現節位と分げつの最高次位とを調査した. 一次最終分げつの出現節位は, 苗立密度が低いほど高い傾向があり, 分げつの次位も高まった. したがって, 一次分げつの出現節数と分げつの最高次位とから算出される最大分げつ数の理論値(Tmax.)は, 苗立密度が低いほど多かった. 穂数500本m-2(有効茎歩合65%)を確保することを前提に, 最大分げつ数にもとづいて苗立密度の下限値を算出すると24~46本m-2となる. これは, 生育・収量から判断した既往の報告における苗立密度の下限値30~50本m-2とよく一致した.
  • 玉置 雅彦, 猪谷 富雄, 山本 由徳
    1999 年 68 巻 1 号 p. 16-20
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    有機質肥料(水溶性タンパク濃厚エキス;N:9.2%, P2O5:2.4%, K2O:3.1%を含む)と無機質肥料が水稲の生育に及ぼす影響の差異について, 異なる光条件下で検討した. 2.5葉齢の日本晴苗を1/2000aワグネルポットに移植し, 移植期から止葉展開期まで無遮光と50%遮光条件下で, 移植期から10日毎に有機質肥料(有機区)と無機質肥料(無機区)をポット当たり1回の施肥量がN:460mg, P2O5:120mg, K2O:155mgとなるように液肥で与えた. 主茎の葉齢の推移は光条件に左右されたが, 肥料の違いによる差は認められなかった. 分げつ発生数は無遮光下では無機区で有機区よりも有意に多かったが, 50%遮光下では逆に有機区で多くなる傾向がみられた. 光合成速度, 葉色(SPAD)値および止葉窒素含有率は無機区で有機区よりも高い値を示した. 止葉展開期の地上部乾物重は, 無遮光下では無機区で重かったが50%遮光下では有機区で重くなった. また, 根乾物重はいずれの光条件下でも有機区で重かった.
  • 楠谷 彰人, 上田 一好, 浅沼 興一郎, 豊田 正範
    1999 年 68 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ヨーロッパとアメリカの品種10(E群), 日本の品種20(J群)およびアジア各国で育成された多収品種16(H群)を供試し, 収量性の群間差を検討した. 総籾数(N)と籾容積(V)との積により収量キャパシティ(NV)を表し, 穂揃期までに稲体中に蓄積された炭水化物量(CW)と登熟期における乾物生産量(ΔW)との和で収量内容物(CW+ΔW)を表現した. (CW+ΔW)/NVをソース・シンク比とみなした. 平均収量(Y)はH群で最も多く, E群で最も少なかった. H群のNVとCW+ΔWはともに3群中最も大きかったが, ΔWはJ群と比べそれ程多くなかった. また, NVの増加がCW+ΔWの増加を上回っていたため, H群の(CW+ΔW)/NVはJ群に比べ低下した. しかし, H群は収量内容物の移行率[Ef:Y/(CW+ΔW)]が3群中最も高く, 籾比重(S:Y/NV)もJ群並に高かった. これらの結果は, H群の多収性が主に大きなNVとCWおよび高いEfに基づくことを示唆している. したがって, H群の収量性を一層高めるためには, ΔWの増加によるソース・シンク比の向上が必要と考えられた.
  • 永尾 浩司, 高橋 肇, 中世古 公男
    1999 年 68 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本試験では, 群落内での光の透過分布が大きく異なるコムギ2品種(ハルユタ力と農林61号)について, 開花前および開花後での遮光処理が乾物生産特性に及ぼす影響について調査した. 子実収量は, ハルユタカが遮光処理により無処理区に比べて13-15%低下したのに対して, 農林61号では遮光処理により32-34%低下した. このことは, 全乾物重がハルユタ力と農林61号で遮光処理によりそれぞれ11-13%と27-32%低下したことに起因しており, ハルユタカは日射不足条件での乾物生産量の低下程度が農林61号に比べて小さいことが明らかとなった. この際, 葉身の窒素含有率は, ハルユタカでは第2葉と第3葉で開花前遮光処理により乳熟期(処理終了後)に無処理区より高い値を示したものの, 農林61号では遮光処理による影響が認められなかった. さらに, 葉身の可溶性炭水化物の日中増加量は, ハルユタカでは遮光処理により乳熟期に無処理区とほぼ同様あるいはそれ以上の値を示したものの, 農林61号では遮光処理により乳熟期に無処理区よりも低い値を示した. これらの結果から, ハルユタカは遮光処理終了後, 群落での光合成生産量が高まったものの, 農林61号ではそのような変化がみられなかったものと推察された.
  • 福川 泰陽, 鄭 紹輝
    1999 年 68 巻 1 号 p. 34-38
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    北部九州におけるキマメの栽培についての知見を得る目的で, ICRISATから分譲を受けた極早生とされる8系統を, 1993年および1996年に播種期を変えて栽培し, 生長および開花・結莢諸特性について調査を行った. 1993年の結果では, すべての系統は出芽後順調に生長し開花・結莢したが, 播種から開花まで日数および開花・結莢の状態によって, 有限伸育型(6系統)と無限伸育型(2系統)に類別された. 有限伸育型系統は日長感応性が弱く, 播種期の早晩による栄養生長量および開花まで日数の変動が小さかったが, 無限伸育型系統は日長感応性が強く, 播種期が早いほど栄養生長量が大きく, 開花まで日数が長かった. 更に, 1996年では子実生産を目的に日長感応性が弱い有限伸育型3系統を栽培した結果, 早播きほど莢の成熟が不斉一のため, 収穫は長期間を要したが, 6月下旬頃までの播種においては収量の違いは小さかった. 以上のことから, 北部九州において子実生産を目的としたキマメの栽培を行う場合は, 有限伸育型系統を6月中旬から下旬の間に播種することが望ましいと考えられた.
  • 杉本 秀樹, 佐藤 亨
    1999 年 68 巻 1 号 p. 39-44
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    夏季における新ソバ供給と水田の高度利用を目的にした, 西南暖地における夏ソバ栽培技術の確立に関する研究の一環として, 播種期の違いが夏ソバの生育ならびに収量に及ぼす影響について調査した. 普通ソバ品種キタワセソバの種子を, 愛媛大学農学部内の雨よけビニルハウスに設置したポットに3月中旬から6月初旬まで10日ごとに播種した. 播種期が遅くなるほど開花数は増加したが, 結実率の著しい低下により粒数が減少し, さらに千粒重も低下して子実重は減少した. 特に, 開花始~成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えると結実率は顕著に低下した. したがって, 西南暖地における夏ソバの播種は, 遅霜の心配がなければできるだけ早く, かつ開花始~成熟期における日最低気温の平均値が17.5℃を越えない時期までに終える必要があることが明らかになった. さらに, 瀬戸内地域においては遅霜と梅雨入り時期ならびに上記臨界温度を考慮すると, 播種期は3月下旬から4月中旬に限定されること, 4月中旬までに播種すれば収穫は6月初旬となり, 初夏には新ソバの供給ができるばかりでなく, その後作に水稲はもちろんダイズ, 飼料作物などの栽培も可能となり, ソバを水田における輪作体系に組み込むことができることも明らかになった.
  • 平 俊雄
    1999 年 68 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲の登熟期の平均気温と糊化特性および炊飯特性との関係を検討した. 登熟期の平均気温と糊化特性における水温85℃での粘度およびブレークダウンとの間には高い正の相関関係がみられ, 精米比重と水温85℃での粘度との間には高い正の相関関係がみられた. 一方, 登熟期の平均気温と炊飯特性における水温70℃での加熱吸水率との間には高い負の相関関係がみられ, 精米比重と水温70℃での加熱吸水率との間には高い負の相関関係がみられた.
  • 谷口 義則, 藤田 雅也, 佐々木 昭博, 氏原 和人, 大西 昌子
    1999 年 68 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    九州地域のコムギ粗タンパク質含有率を増加させる手段として, 基肥及び1回目追肥の量を通常施肥量の72%に減じ, その分を穂孕み期に2回目の追肥として施す施肥法の有効性を調べた. 異なる粗タンパク質含有率を持つ16品種を用いた2ヵ年の試験で, 穂孕み期追肥区は対照区と比較し, 成熟期が全品種平均で約半日遅延し, 千粒重, リットル重が有意に増加した. 穂孕み期追肥に伴う千粒重の増加と粉の明るさの増加, リットル重の増加と製粉歩留の増加とは有意な正の相関関係が見られた. 子実収量に対する影響は年次および品種により異なった. 試験2年目の穂孕み期追肥により, 硝子率の増加がみられたが, 粒および粉品質の低下には結びつかなかった. 子実及び粉粗タンパク質含有率は有意に増加し, 粗タンパク質収量(子実収量×子実粗タンパク質含有率)も2年目に多くの品種で増加した. 一方, 子実および粉灰分含有率は有意に低下した. 粉の白さ, 明るさに対する穂孕み期追肥の効果は品種により異なった. しかし, 粉粗タンパク質含有量の増加した品種の多くは, 粉の明るさが低下した. 品種間の比較から, 穂孕み期追肥の粉粗タンパク質含有率, 粉灰分含有率への効果について, 粗タンパク質含有率の高い品種グループと低い品種グループ間での差異は見られなかった. 以上から穂孕み期追肥は, 九州地域におけるコムギの, 粗タンパク質含有率を増加させる手段として, 有効であることが判明した.
  • 鈴木 光喜, 佐藤 雄幸, 秋山 美展
    1999 年 68 巻 1 号 p. 54-57
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    「秋試緑1号」は, 秋田県の鹿角地方で栽培されていた在来種の「雪の下」を原品種として, 系統集団選抜法によって育成した青大豆である. 主力品種であった「青目大豆」に比べ成熟期は22日早い中生種である. 主茎長は短く, 倒伏は少なく, 多収で機械化適性は高い. 種皮色は濃緑, 子葉色は緑で青目大豆より濃く, 外観品質も良い. 播種適期は6月上~中旬である. 播種密度は上旬は14本/m2, 中旬は18本/m2程度がよい. 豆乳の緑の色調は明らかに濃く, 豆腐の食味は青目大豆並に良い. 栽培適地は県内全域である.
  • 王 才林, 宇田津 徹朗, 藤原 宏志
    1999 年 68 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネにおける機動細胞珪酸体形状によるインディカ型とジャポニカ型品種群判別の実用性を検討するため, インディカ品種T-153とT-160およびジャポニカ品種T-708を用い, 1/5000aワグネルポット栽培で窒素(N)20gm-2, 10gm-2, 5gm-2の3処理区を設定し, 珪酸体形状に与える窒素施用量の影響を調べた. その結果, 窒素施用量が珪酸体形状に及ぼす影響は小さいことが分かった. また, 判別得点に多少の影響がみられるものの, インディカ・ジャポニカ品種群判別には影響がないことが明らかになった.
  • 石川 哲也, 藤本 寛, 椛木 信幸, 丸山 幸夫, 秋田 重誠
    1999 年 68 巻 1 号 p. 63-70
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    1992年から1996年にわたる5年間, 合計9作期の多肥条件(窒素18g m-2)での栽培試験をもとに, 半矮性インド型水稲品種タカナリの出穂期までの乾物生産および穎花数の決定機構を, 日本型品種コチヒビキを対照として検討した. 出穂期におけるタカナリの面積当たり地上部全乾物重(全重)は平均すると1108g m-2となり, 4回実施した6月初旬移植区のうち3回でコチヒビキを有意に上回った. タカナリの出穂期全重の変動係数は7%で, コチヒビキの11%よりも小さく, 安定性が認められた. タカナリの面積当たり穎花数は平均すると4.84万粒 m-2となり, すべての試験区でコチヒビキより有意に多かった. タカナリの面積当たり穎花数の変動係数は5%で, コチヒビキの6%よりやや小さく, 安定性が認められた. 生育期間の気温が上昇すると, 移植後約45日までの両品種の乾物生産量は, 葉面積の展開速度の上昇により増大したのに対して, その後出穂期までの期間の乾物生産量は, 生育日数が短縮したためむしろ低下した. 感光性の高いコチヒビキでは, 気温が上昇した6月初旬移植区では短日条件に早く到達したことも影響して, 移植後約45日間の乾物生産量の増大よりも, その後出穂期までの乾物生産量の低下の方が大きかった. これに対して, タカナリでは, 気温の上昇による移植後約45日間の乾物生産量の増大とその後出穂期までの乾物生産量の低下はほぼ同程度であったため, 出穂期全重が安定していたと判断された. 穂数の減少に伴い, コチヒビキでは面積当たり穎花数も減少したが, タカナリでは1穂当たり穎花数の増加が大きく, 面積当たり穎花数の変動が小さくなった. 1穂当たり穎花数および面積当たり穎花数に認められた品種間差の要因としては, タカナリの1次枝梗当たりの2次枝梗分化数が多いという形態的特性の関与の方が, 乾物生産の影響よりも大きいと推定された.
  • 福嶌 陽
    1999 年 68 巻 1 号 p. 71-76
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    日本型イネ8品種とインド型イネ8品種を用いて, 穂の分枝構造を退化痕跡から推定した退化した穎花および分枝を含めて再現し, 品種間で比較した. いずれの品種においても穂軸に沿った各1次分枝上の2次分技数, および3次分枝数は, 穂軸の基部から中央部においてはほぼ一定であり, 頂端部に向かってやや減少した. 分枝の次元に着目して穂の分枝構造をみたところ, 日本型品種よりインド型品種は高次の分枝数の割合が大きかった. ただし, 日本型品種でもIR65598-112-2だけは, 高次の分枝数の割合, 特に(3次分枝数/2次分枝数)が著しく多かった. また, 日本型品種よりインド型品種は穂首節間の大維管束数を1次分枝数で割った値は大きいが, 穂首節間の直径に対する1次分枝数は少なかった. これらのことから, 穂の分枝構造は品種群間で異なっており, これは分枝の分化・発育の様式の差異によって生じることが示唆された. さらに, このような穂の分枝構造の差異と1穂穎花数との関係を検討したところ, 1穂穎花数の品種群内の差異は1次分枝数によって, また品種群間の差異は高次の分枝数の割合によって規定されていると考えられた.
  • 福嶌 陽
    1999 年 68 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    幼穂の分化・発育過程の観察・測定結果を基に, 第1苞原基分化期および1次分枝原基分化期における茎頂の直径を推定し, これらが穂の分枝構造に及ぼす影響を日本型品種とインド型品種の間で比較した. その結果, 品種群の違いにかかわらず, 第1苞原基分化期における茎頂の直径が大きいほど1次分技数が多く, 1次分枝原基分化期における茎頂の直径が大きいほど(2次分枝数/1次分技数)が多かった. これらのことから, 各次元の分枝数は, 分化する場の大きさに規定されていることが示唆された. また, 日本型品種よりインド型品種は第1苞原基分化期における茎頂の直径に対する1次分枝原基分化期における茎頂の直径が大きく, そのため高次の分枝数の割合が大きいことが分かった. つぎに, 穂首節間の大維管束数や直径と穂の分枝構造との発育形態学的な相互関係に着目して, 穂の分枝構造がどのように決まるかについて考察した. 以上の結果から, 1穂穎花数は, 第1苞原基分化期における茎頂の直径を介した1次分枝数と, この直径に対する1次分枝原基分化期における茎頂の直径を介した高次の分校の割合によって規定されると考えられた.
  • 荒瀬 輝夫, 井上 直人, 天野 高久
    1999 年 68 巻 1 号 p. 83-90
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    ヤブマメのつるの生長と子実生産との関係を, ファイトマー概念に基づいて分析した. 地下部ではファイトマー数と花莢数とに強い正の相関があった. 分枝発生位置選択の可塑性(H)は, ファイトマー数に強い影響を受けたが, エントロピーによる草型指数(H')とファイトマーの伸長可塑性(PE)は影響されながった. 2次分技のH'は地上花莢数と有意な正の相関があり, 地際1次分枝のPEはファイトマー当り花莢数と有意な負の相関があった. 地上部と地下部のファイトマー数の間には相対生長関係があり, 地上部ファイトマー数と, 地上から地下に貫入したファイトマー(PS)数との相関が高く, 子葉節から発生した地下ファイトマー(CS)数との相関は低く, PSとCSを合計すると地上部との相関が最大となった. したがって, CSは地下部での補償生長機能をもつと推察された. 地際1次分枝のPEと, 地上から地下へのファイトマー貫入率とに負の相関が認められたことから, つるの平面的拡大と地下貫入による定着との間の拮抗関係が明らかとなった. PSとCSの関係や, H'とPEの変異をもとに, 草型, 本成り性の向上による栽培化が期待される.
  • 道山 弘康, 舘本 篤志, 林 久喜
    1999 年 68 巻 1 号 p. 91-94
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    普通ソバにおいて, 栽培時期と品種の違いによって変化する茎葉の生長, 開花の進行速度, 開花数および開花期間の長さ, ならびに結実の相互関係を明らかにすることを目的として研究を行った. 1) 夏栽培した夏型品種に対して, 結実を阻害するために開花した花を除去した. その結果, 花房数および開花数が増加し, 開花期間が長くなった. このとき開花の進行速度には影響がみられず, また, 1花房内の開花数はやや増加したが有意差はなかった. 花房数および開花数の増加は, 無処理区では生長しなかった高次位の側枝が生育後期に生長することによっていた. 2) 結実が著しく不良となる夏栽培の秋型品種に対して, 花房を一つだけ残して他を除去するとともにその花房への養分供給を増加させるために, 摘芯および側芽除去を行った. その結果, 開花の進行および開花数には大きな変化がみられなかったが, 無処理区で約3%であった結実率が処理区では約10%になった. 以上の結果から, 養分の分配を介して茎葉の著しい生長が結実不良の原因の一つとなり, 結実不良が高次位側枝の生長と開花期間の長期化ならびに開花数の増加を引き起こすことが明らかになった. また, 開花の進行には養分の分配以外の生理的要因が関わっていることが推測された.
  • 三枝 正彦, 花木 真由美, 伊藤 豊彰
    1999 年 68 巻 1 号 p. 95-98
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    本研究は各種水稲苗 (Oryza sativa L. 品種ひとめぼれ) の籾の乾物残存割合および茎葉, 根の乾物重の推移と, 高濃度の重窒素でラベルした籾を用いて茎葉, 根における籾由来窒素の吸収利用を明らかにするとともに, 乳苗の生育に対する籾由来窒素と苗床施肥窒素の効果について稚苗, 中苗, 成苗と比較検討した. 乳苗には施肥区と無施肥区を設け, 稚苗, 中苗, 成苗はいずれも施肥して育苗した. 得られた結果は以下の通りである. 乳苗は籾の乾物残存割合が施肥区, 無施肥区ともほぼ45%程度であったのに対し, 窒素の残存割合は無施肥区に比べて施肥区の方が10%低く, 乳苗に施肥すると籾の窒素成分の利用が促進されて, 苗の生育も促進された. これは籾の窒素の利用率が高まって茎葉部の乾物生産が向上したことを示唆するものであり, 乳苗への施肥は機械移植適応性を高めることにおいて有利と考えられた. また籾から根への窒素の移行は乳苗段階までにほぼ終了するのに対して, 茎葉への窒素の移行は稚苗段階まで行われていることが明らかとなった. さらに胚乳の成分を使い切ったと思われる中苗, 成苗の窒素残存割合から見ると, 籾の窒素の17%から18%が水稲の幼苗段階では利用されない窒素であると考えられた.
  • 平野 貢, 上山 純子, Truong Hop Tac, 黒田 栄喜, 村田 孝雄
    1999 年 68 巻 1 号 p. 99-104
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲品種ひとめぼれを標準, 基肥無窒素-疎植(BNo)と米糠施用(RB)の3条件で栽培した. 登熟期の茎(稈と葉鞘)における炭水化物と細胞壁成分(ADF)を各節間ごとに測定し, また両者の関係について検討した. BNoおよびRBの非構造性炭水化物(NSC)は穂首節間を除いて標準区より含有率が高がった. また下位節間ほど含有率が高く, 登熟期における変化が大きかった. ADFの含有率は, NSC含有率とは対照的にBNoおよびRB, また下位節間において低い傾向が見られた. 珪酸が主な成分である灰分の含有率は, ADFとほぼ同じ傾向であった. 乾物重および各茎成分の含有率および面積当たり含有量について試験区, 登熟時期, 各節間を込みにして相関係数を算出した. ADF含有率はNSCおよびデンプン含有率とは高い負の相関, 灰分率とは高い正の相関を示した. しかし, ADF含有量はこれらの成分含有量と高い正の相関を示し, とくに灰分とは著しく高かった. 乾物重はいずれの成分含有率とも低い相関であった.
  • 大川 泰一郎, 高瀬 陽子, 石原 邦, 平沢 正
    1999 年 68 巻 1 号 p. 105-111
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    エンレイに比較してタチナガハの収量が高い要因を生理生態的性質を通じて明らかにするため, 両品種の乾物生産過程について解析を行った. タチナガハはエンレイに比べて, 地上部乾物重が大きく, 百粒重が大きいことによって収量が高かった. タチナガハの地上部乾物重が大きくなったのは, タチナガハの個体群生長速度(CGR)がエンレイに比べて登熟期に大きいことに原因があり, 両品種のCGRの相違は純同化率にあった. 個体群全層の吸光係数には品種間に相違はなかったが, 個体群上層の日中の吸光係数はタチナガハがエンレイより小さく, タチナガハの受光態勢がよかった. さらに, 葉の老化過程における個葉の光合成速度は, タチナガハで高く維持されていた. 以上の結果から, タチナガハがエンレイに比べて乾物生産が高かったのは, 個体群上層の受光態勢がよいことに加えて, 登熟期の葉の老化が遅く, 光合成速度が高く維持されていることにあった.
  • 磯部 勝孝, 坪木 良雄
    1999 年 68 巻 1 号 p. 112-117
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    土壌中の有効態リン含有量が低く生育が阻害される条件下でインゲンマメに種々のアーバスキュラー菌根菌を接種して宿主の生育の違いから, インゲンマメ栽培に有効なアーバスキュラー菌根菌を検索した. 実験に用いたアーバスキュラー菌根菌は Gigaspora ramisporophora, Gigaspora margarita, Glomus caledonium, Glomus fasciculatum, Glomus mosseae および未同定の Glomus 属の菌である. 1/5000a ポットにアーバスキュラー菌根菌の胞子(厚膜胞子または偽接合胞子)を1000個接種した場合, 接種した菌種により感染率は異なり, Glomus caledonium, Glomus mosseae を接種した区で高かった. また, インゲンマメの生育・子実収量は菌を接種した全ての区で良好となったが, 接種種間で差があり, Glomus caledonium, Glomus mosseae を接種した区が特に良好であった. さらに, インゲンマメ一個体に Glomus mosseae の厚膜胞子5000個を接種するとインゲンマメの子実収量はリンを施用して栽培したインゲンマメの子実収量と差がなかった. これらのことから, インゲンマメ栽培には土壌中のリン含有量が低く生育が阻害される条件下でのアーバスキュラー菌根菌の接種は生育促進に有効で, 特に Glomus mosseae を接種するとリンを施用して栽培したインゲンマメと同様の子実収量が得られる可能性が示唆された.
  • 磯部 勝孝, 坪木 良雄
    1999 年 68 巻 1 号 p. 118-125
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    作物栽培において接種したアーバスキュラー菌根菌(以下, AM菌)を長期利用するため, 冬作物がAM菌維持と後作インゲンマメの生育におよぼす影響をポット試験で調査した. 土壌にAM菌を接種し, そこでオオムギやエンドウを栽培すると両作物の根にAM菌が感染し, 裸地より胞子が多くなった. その結果, 裸地よりもオオムギやエンドウを導入したほうが後作インゲンマメのAM菌感染率は高く, インゲンマメの生育も優れた. オオムギやソラマメの栽培によって秋から春の間維持したAM菌を後作インゲンマメの栽培にAM菌の接種源として利用した場合, インゲンマメのAM菌感染率や生育は, AM菌をインゲンマメの播種時に接種した場合と差がながった. AM菌を接種した土壌で冬季に雑草(ハコベ, ホトケノザ, オランダミミナグサ)を生育させると, 裸地よりAM菌の胞子数は多くなった. しかし, 冬季に雑草を生育させた場合, 後作インゲンマメの生育は, インゲンマメ播種時にAM菌を接種した場合に比べ劣った. 以上の結果から, 冬季のオオムギやソラマメの栽培により土壌中のAM菌の密度は翌年の春まで維持され, 維持されたAM菌は後作インゲンマメの栽培にAM菌接種源として利用できることが明らかになった. また, 冬季の雑草の生育は, 裸地に比べAM菌密度の減少を抑制するが, その効果はオオムギやソラマメに比べ低かった.
  • 大西 政夫, 堀江 武
    1999 年 68 巻 1 号 p. 126-136
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    水稲各器官中の非構造性炭水化物(NSC)の簡易定量法としての重量法の有効性を検討した. 試料約0.5gに蒸留水30mLを加えてホットプレート上で加熱してデンプンを糊化, 放冷後, リン酸緩衝液(KH2PO4;12.08g L-1, Na2HPO4・12H2O;3.98g L-1, NaN3;0.025g L-1)20mLにα-アミラーゼ1.5mgとアミログルコシダーゼ0.5mgを添加した懸濁液を加え, 40℃・24時間振どう培養を行い, NSCの抽出を行った. 重量法では, NSC抽出後, 全ての残渣を濾紙(Advantic Toyo No.5A)上に濾別し, この残渣乾物重を測定し, それと試料乾物の差より可溶性物質含有率(NSCWS)を算出した. 比色法では, この濾液に弱酸加熱処理を加えた後, ρ-ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド法により, グルコース換算量の還元糖含有率(NSCGL)を測定した. 水稲の葉身では両分析値間に一定の関係はなかったが, 葉鞘+稈および穂では, 極めて高い正の相関(r2≧0.912)があり, この関係には栽培条件, 品種, 生育時期等による明確な差異はなかった. 誤差の伝播法則を用いて画法の誤差を比較した結果, 重量法のNSCWS分析値およびそのNSCGLへの変換値の方が, 比色法のNSCGL分析値よりも誤差が小さかった. 近赤外分光分析法(NIR法)に用いた場合, NSCWSの方がNSCGLよりも誤差が小さかった. 以上より, 重量法は, それ単独で, あるいはNIR法と結合させることで, 水稲の葉鞘+稈および穂のNSCを簡易・迅速・高精度に分析できること, NSCWSはNSCの指標となること, そして, 回帰式NSCGL=1.10NSCWS-11.7(葉鞘+稈), NSCGL=1.07 NSCWS-8.2(穂)により, NSCGLにも高精度で変換できることがわかった.
  • 本間 香貴, 中川 博視, 堀江 武, 大西 宏明, 金 漢龍, 大西 政夫
    1999 年 68 巻 1 号 p. 137-145
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    地球環境変化に対する作物応答を明らかにするために, 高温・高CO2濃度環境がイネ群落の蒸散とガス拡散抵抗に与える影響を調査した. CO2濃度をそれぞれ365と700μL L-1に設定した2棟の温度傾斜型CO2濃度制御チャンバー(TGC)の各々に3温度区(実験期間内平均気温29.8, 30.4, 32.5℃)を設け, 水稲品種アキヒカリとIR36を栽培し, 実験に供試した. 各温度・CO2濃度処理区で8月2日(幼穂形成期)から8月22日(出穂期)まで, 乾湿球温度, 群落表面温度(Tc)と純放射量を測定し, また, ミクロライシメータ法を利用して蒸発散量(E)も測定した. Eの測定値と微気象データをもとに得られた水蒸気と熱輸送に対する空気力学的拡散抵抗(ra)は, 全処理区, 全計測期間を通じてほぼ一定値の11.7sm-1で推移した. このra値とTcおよび微気象データを熱収支式に代入し, Eおよび群落拡散抵抗(rc)を求めたところ, Eの推定値とライシメータ法による実測値は, 両品種とも非常によく一致した. 両品種のrcは全ての温度・CO2濃度処理区において, 全天日射量が500W m-2以上で最小値(rc,min)に達した. 最も低い温度区では, 高CO2濃度によって, 自然CO2濃度環境下よりもrc,minが40~49%, Tcが1.4~1.6℃増加し, Eが14~16%減少した. しかし, この高CO2濃度の影響は生育温度の上昇につれて減少した. このようなrc,minの温度とCO2濃度に対する反応は, イネのこれらの環境に対する長期の適応現象によるものと思われた。以上より, 地球の温暖化は, CO2濃度の上昇によるイネの水利用効率の向上効果を減少させることが示唆された.
  • 田代 卓, 三枝 正彦, 渋谷 暁一
    1999 年 68 巻 1 号 p. 146-150
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    寒冷地における不耕起直播栽培の播種作業の分散と早期出穂を目的に, 水稲品種"こころまち"の早春播種を試みた. 播種後湛水することにより種子が位置する湛水土壌表面下1cmの地温は気温より高く推移し, 播種-苗立ち期間の温度差は1995年は平均4.6℃, 1996年は平均3.7℃であった. 1995年は, 3月下旬から4月下旬にかけて5日間隔で催芽籾を播種したところ, 出芽率は約70%以上であったが苗立ち率は14~47%と低く, 播種の早晩との関係はみられなかった. また, 出穂は3月下旬播種において3日程度早まった. 1996年は10日間隔で播種したところ, 出芽率は33~53%, 苗立ち率は22~38%となり, 苗立ち率は播種日が遅い程高い傾向がみられた. また3月下旬播種において, 出穂日は1日程度早まり葉数は1.6枚増加した. 以上のように寒冷地における不耕起直播栽培の早春播種では, 出芽率に比較して苗立ち率が低いもののその後の生育は順調であることから, 播種作業の分散の可能性が, また, 葉数が増加し出穂が早まる傾向がみられたことから登熟および品質確保の可能性が示唆された.
  • 島田 多喜子, 大谷 基泰, 生田 陽子
    1999 年 68 巻 1 号 p. 151-154
    発行日: 1999/03/05
    公開日: 2008/02/14
    ジャーナル フリー
    イネ育種に葯培養技術を効率的に用いるための葯培養培地を決定した. カルス誘導培地には, N6基本培地(N6無機塩, glycine2.0mgL-1, thiamine HCl 1.0mg L-1, pyridoxine HCl 0.5mg L-1, nicotinic acid 0.5 mg L-1)に蔗糖70000 mg L-1および2, 4-D4mgL-1を添加し, 寒天8000 mg L-1で固形としたものが, 供試したすべての品種で効果的であった. 再分化培地は, LS基本培地(LS無機塩, thiamine HCl 0.4 mg L-1, inositol 100 mg L-1)に蔗糖30000 mg L-1, ソルビトール30000 mg L-1, CH(casein hydrolysate)2000 mg L-1, kinetin 1.0 mg L-1, NAA2.0 mg L-1, MES(2-(N-morpholino) ethanesulfonic acid) 1000 mg L-1を添加し, ゲランガム 4000 mg L-1で固形としたものが最も効率的に植物体を再生した.
feedback
Top