抄録
症例は51歳の女性で,盲腸低分化型腺癌の術後,血清Na値が低下し20日目に118mEq/Lとなった.浸透圧は血漿239mOsm/kg,尿750mOsm/kgで,細胞外液量は正常,Antidiuretic hormone(以下,ADHと略記)は2.3pg/mlと分泌は抑制されず,Syndrome of inappropriate secretion of ADH(以下,SIADHと略記)の診断で水制限とナトリウム負荷を行い6日間で血清Na値は138mEq/Lとなった.脳MRIで癌性髄膜症と診断されSIADHの原因と考えられた.術後2か月,口渇,多飲,多尿を認め,尿浸透圧は183mOsm/kg,ADHは0.3pg/ml以下で中枢性尿崩症と診断,デスモプレシンの投与で尿量は著減した.転移が下垂体から視索上核,室傍核に及んだためと推察された.大腸癌の頭蓋内転移によりSIADHと尿崩症を発症することはまれと思われ報告した.