抄録
洞不全症候群,房室ブロックに代表される徐脈性不整脈疾患は,加齢性変化にて多くみられるが,若年や家族性に認められる場合には遺伝的素因の関与が強く疑われる.今回われわれは,家族性徐脈性不整脈疾患の遺伝的背景を調べるために,家族性ペースメーカー植込み患者33症例(すべて発端者)を対象として候補遺伝子の網羅的スクリーニングを施行した.遺伝子解析の結果,33例中17例(51.5%)に心臓Na+チャネル遺伝子(SCN5A),またはLamin A/C遺伝子(LMNA)異常を同定した〔SCN5A異常8/33例(24.2%),LMNA異常9/33例(27.2%)〕.SCN5A異常を検出した8例中5例には,ほかの心臓Na+チャネル病の合併(Brugada症候群4例,QT延長症候群1例)を認めた.一方,LMNAは核膜の裏打ち蛋白であるLamin A,Cをコードし,その遺伝子異常により拡張型心筋症,心臓伝導障害,致死性心室性不整脈による突然死を引き起こす.本研究の結果,家族性ペースメーカー植込み患者には,突然死を引き起こし得る心臓Na+チャネル病(Brugada症候群,QT延長症候群)やLamin A/C遺伝子関連心筋症を合併している例が少なくないことがわかった.治療としては,ペースメーカー植込みではなく,植込み型除細動器や除細動機能付き両室ペーシング植込みが望ましい例もあり,家族性徐脈性不整脈症例における遺伝子解析の重要性が示唆された.