疾患iPS細胞を活用することで,患者病態の試験管内での再現や疾患メカニズムの解明,ヒトモデルを用いた治療薬の開発が可能になっている.本総説では,我々が取り組んできたティモシー症候群やQT延長症候群1型,2型の疾患iPS細胞を利用した疾患メカニズムの解明と既存薬の再開発について紹介する1).本研究によって,鎮咳薬のデキストロメトルファン(製品名:メジコン)がQT延長症候群を改善することを患者由来iPS細胞とマウスモデルを用いて見出してきた.その作用メカニズムとしては,シグマ非オピオイド受容体1が新たなキープレーヤーとなり,薬剤処理によるシグマ非オピオイド受容体1の活性化によりCDK5やCa2+,K+チャネルと直接相互作用することによってチャネル機能が回復し,分化誘導したiPS細胞由来心筋細胞における活動電位持続時間の短縮が起こることが示唆された.本総説では,そのメカニズムとともに詳細に解説する.
【はじめに】わが国の75歳以上の高齢者を対象とした後期高齢者健診では,心電図検査は実施が望ましいと医師が判断した対象者にのみ実施される項目であり,全員に実施される必須項目ではない.75歳以上の高齢者に対する心房細動スクリーニングは脳梗塞発症等の減少に寄与する可能性があり,後期高齢者健診における心電図検査の積極的実施が有効であることが期待される.しかし,わが国の後期高齢者健診における心電図検査実施状況は不明であり,実施状況と脳梗塞発症および心房細動の診断との関係も不明である.【対象と方法】各都道府県の後期高齢者健診における心電図検査実施状況を調査した.実施状況と75歳以上の脳梗塞入院患者数および心房細動等アブレーション件数との関係を検討した.【結果】多くの都道府県では,心電図検査が実施されているのは後期高齢者全体のうち,ごく一部であった.心電図検査が実施されている割合が高い都道府県ほど,75歳以上の脳梗塞入院患者数が少なく,心房細動等アブレーション件数が多かった.【結語】後期高齢者健診における心電図検査の必須項目化は,心房細動新規診断数を増やし,早期治療介入を通じて脳梗塞の発症抑制に寄与する可能性がある.
症例は68歳女性で,肺炎に対して入院加療されていた.入院加療中に心房性頻脈を発症し,薬物加療を開始した.入院4日目に心臓超音波検査で左房内および左室内に血栓を形成し,抗凝固療法を開始した.しかし,入院5日目に可動性のある左室内血栓を起源とする多臓器塞栓症を認め,緊急で左室内血栓摘除術を施行した.手術は右側左房よりアプローチし,左室心尖部にある12×15mm大の血栓を摘除した.また,心房頻拍に対して左心耳切除,肺静脈隔離,三尖弁輪間峡部のアブレーションを施行した.術後は全身状態の増悪はなく経過していたが,術後1週間は心房頻拍の再発に対し薬物療法と抗凝固療法を行った.退院後,心機能回復を確認し,カテーテルアブレーション治療を行なった.アブレーション治療では心房頻拍の起源となる部位を同定し,治療後は心房頻拍の再発はなく経過している.本症例は心房頻拍による頻脈誘発性心筋症を発症し,左室内血栓を形成した稀な症例であり,文献的考察を踏まえて報告する.
遠隔モニタリングは,植込み型心臓不整脈デバイス(CIEDs)患者の管理において早期のイベント発見や定期外来受診回数の削減や死亡率低下などの利点をもたらすことより,CIEDs患者の標準患者管理手段として確立されている.しかし,遠隔モニタリングの普及に伴い,その導入方法や効率的で安全な維持管理が重要な課題となっている.この日本不整脈心電学会(JHRS)ステートメントは,遠隔モニタリングの管理に携わる医療従事者やデバイス製造メーカを対象に,包括的なガイダンスを提供することを目的としている.具体的には,人員配置,ワークフローの最適化,患者と介護者などへの教育,アラート通知設定,生体情報のモニタリング,保険請求などに関する指針が含まれている.また,デバイス製造メーカの責務と,サードパーティリソースの活用やアラート通知に基づく業務量削減などについても述べた.推奨事項は,執筆班の合意に基づき,推奨クラスとエビデンスレベルが設定され,JHRS植込み型デバイス委員会による審査と査読が行われた.