環境科学会誌
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日本海側における水銀等化学成分の大気中濃度と湿性沈着量の季節変動
丸本 幸治坂田 昌弘
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2007 年 20 巻 1 号 p. 47-60

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抄録

 日本海側に位置する島根県松江市において大気中のガス状水銀(ガス状Hg)及び粒子状水銀(Hg(p))濃度並びにHgの湿性沈着量を1998年12月から2001年11月まで観測した。また,大気中水銀の発生源,輸送並びに沈着過程に関する知見を得るため,土壌,海塩,人為発生源の指標となる化学成分(Al,Ca,Cd,Fe,K,Mg ,Mn,Na,Pb,Zn,CL-,NO3-,542,NH4+)に加えて,大陸由来物質の長距離輸送の指標となるPb/Zn濃度比とPb同位体比も同時に観測した・松江市の大気中Hg(P)濃度及びHgの湿性沈着量は冬季から春季にかけて高く,夏季に低かった。春季にはこの時期に頻繁に起こる黄砂現象の影響を受けて主に土壌由来であるAl,Fe,nss-Ca,Mnの大気中濃度が高くなり,これらの湿性沈着量も増大した。黄砂時には大気中のHg(p)濃度も高かった。冬季及び春季の黄砂時にはPb/Zn濃度比とPb同位体比が1990年頃から現在までに日本国内で観測された値よりも高く,大陸において観測される値に近づいた。さらに,これらの季節には大気中のHg(P)濃度と大陸由来物質の影響を強く受けるPb及びnss-SO42-の各濃度との間に有意な正の相関がみられた。松江市の大気中Hg(p)及び降水中Hgの地殻の平均組成に基づく濃縮係数及び大気-降水間における洗浄比による解析を行なった結果,冬季に湿性沈着するHgのほとんどは大気中Hg(P)の取り込みによることが明らかとなった。以上のことから,日本海側に位置する松江市では,冬季及び春季の黄砂時に大気中のHg(p)が大陸からの長距離輸送によって供給され,降水に取り込まれて沈着すると考えられる。一方,夏季には大気中Hg(P)濃度は低く,降水へのHgの取り込みはガス状Hgを主体するものである。

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