視覚システムは,縮小運動する物体よりも拡大運動する物体に対して優位に感度が高く,好みなどの感性評定値も高いことが指摘されている。しかしながら,視覚的短期記憶などの高次視覚情報処理段階においても,このような拡大運動情報に対する優位な影響が認められるかどうかは明らかにされていない。そこで本研究では,視覚刺激がもつ拡大/縮小運動情報が視覚的短期記憶に与える影響について検討した。実験参加者は,複数の線分が拡大 (または縮小する) 2 つの画面が継時提示された後,両画面に含まれる線分の傾きが,同じか異なるかを強制二肢選択法によって判断した。その結果,提示される線分数が増えるにつれて,縮小運動する線分よりも,拡大運動する線分の方が記憶容量が上昇することがわかった。以上の結果を踏まえて,視覚的短期記憶表象を構成する高次視覚情報処理においても,縮小運動情報に対して拡大運動情報が優位性をもつことが明らかにされた。