日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
症例報告
認知機能検査を認知症の生活障害支援に活用した1例:本人,家族への心理教育の視点から
扇澤 史子磯谷 一枝山中 崇山本 直宗分須 友香稲葉 百合子大塚 邦明
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2010 年 47 巻 5 号 p. 474-480

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抄録

今回,私達は複数の認知機能検査を組み合わせた認知機能評価が認知症診断のみならず,その後の生活障害への支援についても有用だった症例を経験したので報告する.症例は82歳女性,高血圧・高脂血症にて近医通院中であった.2年前より,日付や予定を10数回も尋ねたり,1日2回の大量の重複買いや鍋焦がしが目立つようになり,症状が増悪したため家族が認知機能低下を心配して当院を受診した.認知機能検査(リバーミード日常行動記憶検査,COGNISTAT,KOHS立方体組み合わせテスト,Mini-Mental State Examination,改訂長谷川式簡易知能検査,時計描画テスト)の結果および頭部MRI所見で全体的な脳萎縮と複数のlacune病変を,Voxel-Based Specific Regional Analysis System for Alzheimer's Diseaseにて5.31と海馬傍回の著明な萎縮を認めたためアルツハイマー型と脳血管性の混合型認知症と診断された.検査結果に基づいて,生活障害の背景にある認知機能障害とそれに対する工夫を検討した.まず大量の重複買いの原因として,展望的記憶と近時記憶の著明な障害が示唆されたが,単純な言語刺激はある程度保持されており,夕食が不要であることを家族が伝えた時に,午前の買い物がなくなったエピソードがあったことから,同様の声かけを続けてもらった.また,日付を繰り返し聞くことの背景には見当識障害と記憶障害の存在が示唆されたため,本人の座席から見やすい位置に,日付のみが示された情報量の少ない日めくりを置いてもらった.これらの外的代償法を行った結果,日付を尋ねる回数が10数回から2,3回に,重複買いも2回から1回に減ったことが家族より報告された.本症例との関わりを通じて,認知機能検査の結果を,実際に生じている生活障害と擦り合わせながら,障害されている機能と保たれている機能の双方について把握すること,および生活障害への支援を行う際に,単なる情報や知識の伝達にとどまらない,本人と家族双方の心理背景を理解する心理教育的な観点を持つことが重要であることが示唆された.

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© 2010 一般社団法人 日本老年医学会
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