本研究の目的は分布型水文モデルを用いて数十年にわたる長期流出計算を行い,それによって得られた河川流量の河川計画への応用可能性を検証することである.そのために,1978から2005年までの1時間単位の観測水文データが存在する一級河川土器川流域を対象とし,最近隣法により雨量を与え,分布型水文モデルのパラメータを同定した.また,モデル入力として,流域平均雨量,風速補正を施した雨量を用いた最近隣法も検討した.対象流域は解析期間にわたって大きな流域改変がなく,同定期間(1978-1992)と検証期間(1993-2005)の年間河川流量,流況曲線,洪水イベントに関して同程度の良い再現性を示した.さらに,観測年最大流量と計算年最大流量の統計学的な性質を調べるために,2標本コルモゴロフ・スミノフ検定を行った.その結果,有意確率,p値が0.773から0.998であり,かなり高い有意水準で観測年最大流量と計算年最大流量の分布が違うとは言えないことが分かった.また,標本から100年確率流量を推定した場合,計算流量時系列から得られる年最大流量により推定された100年確率流量の相対誤差が-10から20 %程度であった.以上のことから,モデルによる計算流量時系列を使った基本高水流量の算出も十分検討に値するものであることが分かった.