水文・水資源学会誌
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最新号
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巻頭言
原著論文
  • 沢田 明彦, 後藤 慎一, 増本 隆夫
    2024 年 37 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 2024/05/05
    公開日: 2024/05/28
    [早期公開] 公開日: 2023/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

     用排水路等の農業水利施設を含めた水田域の持つ潜在的な遊水地機能とその利活用方法を検討するため,マクロな水田域の貯留能力を定量化するとともに,その機能を用いた農村地域が流域治水に果たす役割を論じた.そこでは,流域の排水能力の整備水準を上回る超過洪水時に生じる水田域での氾濫水の貯留が,都市域の治水に貢献してきた実態を遊水地機能の効果として評価し,その機能を治水に利活用することを超過洪水に対する「ソフト対策」として定義した.次に,低平都市化水田域の西蒲原地区を対象に,排水(通水)能力Dと水田貯留能力Sの関係を定式化し,超過洪水に対する氾濫水を貯留するための水田貯留能力を定量化することで,水田域の持つ遊水地機能を評価する一連の手法を提示し,さらにソフト対策を案出した.加えてソフト対策は,遊水地の新たな整備や排水(通水)能力の増強整備といったハード対策より迅速な対応であることを論じた.最後に,水田域がポテンシャルとして持つ遊水地機能を,農業者側と都市側の協働による補償制度創設を前提に,非常時には流域管理・流域治水の一環として利活用することを,超過洪水対策の選択肢の一つとして提案した.

  • 小川 弘司, 藤原 洋一
    2024 年 37 巻 2 号 p. 125-141
    発行日: 2024/05/05
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル 認証あり

     白山にある多年性の千蛇ヶ池雪渓を対象として,雪渓規模の測量と復元を行い,長期規模データ(面積・体積・雪面高)を整備した.さらに,雪渓の長期変動の特徴を明らかにし,気象要素との関係を解析した.融雪期中期(8月10日前後)は,最も古いデータが1969年で合計44年分,融雪期末期(10月10日前後)は,最も古いデータが1961年で合計53年分となった.その結果,雪渓の年々変動は大きく,拡大と縮小を繰り返していた.また,雪面高には有意な変化傾向はみられなかったが,面積および体積には減少傾向が現れていた.融雪期中期および末期の雪渓規模は,前年11~4月(涵養期)の平均気温との相関が強く,融雪期よりも涵養期の気象要素との相関が強かった.さらに,雪渓に減少傾向が現れている要因を分析するため,融雪期初期(5月1日)の雪面高を推定した.その結果,融雪期初期の雪面高の変化傾向は特定できなかったが,融雪期初期と中期および融雪期初期と末期の雪面高の差(消耗量)には増加傾向が現れていた.そのため,減少傾向にあるのは涵養量よりも消耗量の増加に起因している可能性があると推定された.

  • -球磨川上流左岸流域を事例として-
    鈴木 友志, 濱 武英, 山口 莉歩, 中村 公人
    2024 年 37 巻 2 号 p. 142-154
    発行日: 2024/05/05
    公開日: 2024/06/18
    ジャーナル 認証あり

     近年の流域治水への政策転換に伴い,水田を洪水対策に活用する「田んぼダム」の取り組みが全国的に普及しつつある.この取り組みを実施することにより,豪雨時において水系本川よりも支流河川のピーク流出量の低下と支流河川流域での洪水氾濫対策に効果が大きいものと期待されている.本研究では,農地が卓越する熊本県球磨川上流左岸流域において,田んぼダムの取り組みが複数の支流河川流量のピークカット率に与える影響を評価することを目的とした.用いた内水氾濫解析モデルには本地域特有の複数支流河川流域にまたがる農業水利施設(幹線用水路および豪雨時の支流河川への放流機構)の影響を組み込んだ.その結果,支流河川流域の水田面積率および田んぼダム実施率によってピーク流量緩和効果が異なることが示され,その関係性を簡便な式により推定できた.また,本地域の幹線用水路は豪雨時の排水強化のために排水路として機能し,水路の余水吐から支流河川へおよび水路末端から支流の原田川を経由して本川への流出が生じる構造になっているが,田んぼダムの実施により,支流河川のピーク流量を低下させるだけではなく,水路自体の溢水も抑制されることが推測された.

  • 山崎 大, 岡田 実奈美, 矢澤 大志
    2024 年 37 巻 2 号 p. 155-166
    発行日: 2024/05/05
    公開日: 2024/05/28
    [早期公開] 公開日: 2024/01/19
    ジャーナル オープンアクセス

     流域水循環を初等・中等教育で教えることは,水文学に興味を持つ学生を増やす,水災害や流域マネジメントへのリテラシーを高める,という点で重要と考えられる.カリキュラムを考慮すると流域水循環を短時間で効率的に教える必要があるが,降雨流出過程は多様な現象が相互作用する複雑なシステムであるため,記憶に残りやすい体験型教育ツールの開発は難しかった.本研究では,教育用プログラム言語Scratchを用いて視覚的に分かりやすい降雨流出モデルを構築し,地表面状態のキャリブレーションをゲームとして体験できるツールを開発した.東京大学生産技術研究所オープンキャンパスにて都市化と洪水に着目したワークショップを行い,講義形式の説明に加えて体験型ゲームに取り組むことが降雨流出プロセスの理解を深めるか分析した.その結果,都市化すると洪水が増えるという定性的な理解は講義形式でも深められるが,都市化の度合いによって流出ピークの量やタイミングが変わるという定量的な理解には自ら条件を変えた実験をするゲーム体験が効果を持つと示唆された.また,若年齢なほど講義形式よりも体験型ゲームによって理解が深まりやすいことも確認された.

論説・評論
  • 高薮 出, 花崎 直太, 塩竈 秀夫, 安部 大介, 生駒 栄司, 石川 洋一, 江守 正多, 大塲 あい, 小埜 恒夫, 嶋田 知英, 田 ...
    2024 年 37 巻 2 号 p. 167-176
    発行日: 2024/05/05
    公開日: 2024/05/28
    [早期公開] 公開日: 2023/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     昨今,気候予測や影響評価に関する様々な情報が創出・発信されている.しかし依然として個々の意思決定者のもとにまでそれらの情報は行きわたっておらず,気候変動適応に関する意思決定がなされるまで効果的に利活用されているとは言い難い.この課題に対し,様々な分野の専門家が集まり,①気候予測と影響評価の専門家と適応策の意思決定者の関係はどうあってそれぞれ何をすべきか,②気候予測と影響評価の専門家と適応策の意思決定者は,効果的な適応策の実現に向けた強力な情報提供の主体である民間事業者,気候変動に係るリテラシーや合意形成に深く関わってきたマスメディアや環境NGO/NPOと今後どう共創・協働していくべきかについて,議論した.その結果,そこでは問題に関わる「情報創出」・「情報仲介」・「意思決定」の各主体が活発に双方向に情報共有しあうべきであることが浮かび上がった.また,その実現のためには幅広い主体間の定期的かつ対等な対話機会の確保に加え,情報創出者や情報仲介者の科学コミュニケーション能力のさらなる向上が不可欠であることも示唆された.

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