環境科学会誌
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一般論文
近接住棟による日影が住宅の空調需要に与える影響の地域間比較
雷 蕾一ノ瀬 俊明井村 秀文
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2012 年 25 巻 2 号 p. 106-116

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抄録

中国の暑夏寒冬気候帯における5大都市(上海,武漢,長沙,成都,重慶)を対象(非単身世帯:全電化を仮定)として,近接住棟による空調用電力消費量への日影効果について数値シミュレーションを行った結果,以下の知見が導き出された。(1)対象地域においては,日影効果による冷房用電力消費量削減率が10~20%程度,暖房用電力消費量増加率が0~20%程度に達し,対象地域における近接住棟による日影効果としては,冬期の暖房需要に対する増加効果よりも夏期の冷房需要に対する削減効果が優っている。(2)上海,武漢ではこれら2つの効果が相殺しているが,長沙,成都,重慶では冬期の暖房需要に対する増加効果はほぼみられない。(3)内陸側の3都市(長沙,成都,重慶)では,近接住棟による日影効果を最大限生かすようなデザイン(推奨最小棟間距離による住宅街区設計)を推進すればよい。(4)上海,武漢では棟間距離を広めにデザインすると同時に,住棟に隣接して落葉樹の高木を植栽し,緑陰による日影効果を引き出すなどの考え方が有効である。(5)上海以外では,推奨最小棟間距離より広い場合に削減率が単調減少となるため,推奨最小棟間距離でデザインされた住宅街区において,最も高い削減率が期待できる。(6)武漢と長沙では,現状の推奨最小棟間距離が電力消費量削減の視点からも好ましい数値である。また,解析対象地域を南北(ハルピン,北京,上海,福州,海口)に展開したところ,対象地域における気候の多様性が確保されたため,気候値の差異が計算結果にもたらす影響が明らかとなった。

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