環境科学会誌
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25 巻, 2 号
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一般論文
  • 馬場 健司, 田頭 直人, 金 振
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 73-86
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    一定規模以上の事業所に対して温室効果ガス削減計画書と報告書の提出を義務付ける「地球温暖化対策事業所計画書制度」は,産業・業務部門における低炭素政策として東京都が創出し,多くの地方自治体で導入されつつある。気候変動問題は,多くの自治体間で政策が波及することにより実効性が高まる。そこで本研究は,同制度を題材として,実効性確保措置(どのような義務や制裁が規定されているのか)と波及性(どの程度類似の制度が他の多くの自治体において導入されているのか)との関係について明らかにする。インタビュー調査や質問紙調査を実施し,行政法学や政策過程論的視点より分析した結果,得られた知見は以下のとおりである。第1に,制度設計と運用に影響を及ぼしている要因として,制度の参照元と,導入プロセスにおいて影響を及ぼしたアクター,CO2排出量の産業部門構成比が挙げられる。具体的には,都制度を参照した自治体の制度,導入プロセスにおいて首長,委員会や審議会等,議会が影響した自治体の制度は,排出削減目標の設定方法をはじめとする実効性確保措置を相対的に厳しく規定するもの,或いは行政リソースをより必要とするものとなっている。第2に,CO2排出量の産業部門構成比が高い自治体ほど,実効性確保措置をより厳しく規定しないものの,立入調査を実施して事業所の省エネ,環境配慮に係る情報を収集しようとしている。第3に,都と同様に,現時点で可能な制度を導入した上で,運用状況を見ながら後に段階的に実効性を高めていくという方法を採っている自治体は少数である。第4に,当該制度は,基本的には届出制度であり,制裁措置や立入調査を執行してまで厳格に運用する自治体は少ない現状がある。これには,そもそも限られた行政リソースしか投入できない状況などが背景にあると考えられる。第5に,その当然の帰結として,多くの自治体は総量削減義務の導入を見据えておらず,広域連合や類似自治体など他者動向の様子見も多い。
  • 前田 洋枝, 広瀬 幸雄, 河合 智也
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    本研究では,広瀬(1994)の2段階モデルを元に廃棄物の発生抑制行動の規定因を検討した。調査対象者は東京都23区,大阪市,名古屋市の住民各1000名であり,割り当て法により2010年2月にオンライン調査を行った。7種類の廃棄物発生抑制行動の中から,実行度が高い行動として詰替用品の購入による容器の再利用,実行度が中程度の行動としてマイバッグ持参,実行度が低かった行動としてトレイによって包装されていない食品の購入を選択した。各行動の規定因を明らかにするために共分散構造分析を行った結果,いずれの行動においても,行動意図を高める要因として重要なのは個人的規範と便益評価であることがわかった。リサイクル行動などで主要な規定因とされることが多かった社会的規範評価やコスト評価は,いずれの行動でもほとんど行動意図に影響していなかった。個人的規範には,各行動がごみ減量や地球温暖化防止に効果があるとする対処有効性認知が最も強く関連していた。一方,実行可能性評価が行動意図に及ぼす影響の強さは行動ごとに異なることが明らかとなった。本研究から,それぞれの行動に適したアプローチを検討する必要があると示唆された。
  • 新保 雄太, 中谷 隼, 栗栖 聖, 花木 啓祐
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 95-105
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    環境負荷削減の必要性や埋立地の不足を背景として廃棄物発生量の削減が求められている一方で,持続可能な消費という観点からは,家庭からの廃棄物発生量という消費者の目に見える断面での環境負荷だけでなく,製品の製造段階や廃棄段階を含めたライフサイクルの観点から,温室効果ガスなどの環境負荷も評価する必要がある。本研究では,家庭における廃棄物発生抑制行動として,洗剤容器(洗剤ボトルの使い捨てから詰め替え容器への変化),ご飯(ラップなどを用いた再加熱から炊飯器保温への変化)など5つの消費行動の変化を対象として,ライフサイクル評価(LCA)によって,各代替行動における温室効果ガス排出量,酸性化ガス排出量,化石資源消費量および最終処分量を評価し,それぞれにおける家庭からの廃棄物発生量との関係を議論した。代替行動の設定においては,単なる環境負荷の製品間比較ではなく,消費者の視点から同等の機能を持つように,各選択肢の基本的な機能単位を一致させた。評価結果から,温室効果ガス排出量と酸性化ガス排出量,化石資源消費量に関しては代替行動間の大小関係に同様の傾向が見られる一方で,洗剤容器を除く全ての消費行動において,家庭からの廃棄物発生量は,温室効果ガス排出量などの環境負荷とは代替行動間の大小関係が一致しない場合があることが明らかになった。このことから,廃棄物発生抑制行動を促進する場合には,それがライフサイクルでの環境負荷の削減にも貢献しうるものかどうか,定量的に確認することが求められることが示された。一方で,代替行動間で利用する製品の素材が同じ種類であることや,エネルギーを使用する代替行動ではないことといった条件のもとでは,家庭からの廃棄物発生量をライフサイクルでの環境負荷のベンチマークとして用いることには一定の意義があることも示唆された。
  • 雷 蕾, 一ノ瀬 俊明, 井村 秀文
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 106-116
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    中国の暑夏寒冬気候帯における5大都市(上海,武漢,長沙,成都,重慶)を対象(非単身世帯:全電化を仮定)として,近接住棟による空調用電力消費量への日影効果について数値シミュレーションを行った結果,以下の知見が導き出された。(1)対象地域においては,日影効果による冷房用電力消費量削減率が10~20%程度,暖房用電力消費量増加率が0~20%程度に達し,対象地域における近接住棟による日影効果としては,冬期の暖房需要に対する増加効果よりも夏期の冷房需要に対する削減効果が優っている。(2)上海,武漢ではこれら2つの効果が相殺しているが,長沙,成都,重慶では冬期の暖房需要に対する増加効果はほぼみられない。(3)内陸側の3都市(長沙,成都,重慶)では,近接住棟による日影効果を最大限生かすようなデザイン(推奨最小棟間距離による住宅街区設計)を推進すればよい。(4)上海,武漢では棟間距離を広めにデザインすると同時に,住棟に隣接して落葉樹の高木を植栽し,緑陰による日影効果を引き出すなどの考え方が有効である。(5)上海以外では,推奨最小棟間距離より広い場合に削減率が単調減少となるため,推奨最小棟間距離でデザインされた住宅街区において,最も高い削減率が期待できる。(6)武漢と長沙では,現状の推奨最小棟間距離が電力消費量削減の視点からも好ましい数値である。また,解析対象地域を南北(ハルピン,北京,上海,福州,海口)に展開したところ,対象地域における気候の多様性が確保されたため,気候値の差異が計算結果にもたらす影響が明らかとなった。
  • 冨塚 明
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 117-125
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    炭素循環モデルとして非常に直感的なボックスモデルを用いて,化石燃料の燃焼に伴う人為炭素の動きを追跡した。人為炭素と産業革命以前に存在していた「自然炭素」とでは同位元素である13Cの含有率が異なることに着目し,全炭素及び人為炭素を独立のリサーバーと仮定してシミュレーションを行った。人類はこの250年間で約284Pgの人為炭素を放出してきたが,現在,大気中に存在するものはその約22%である64Pgという結果になった。この数値は現在の大気のδ13C値から推定される値と一致した。この間の大気中の炭素増加量は170Pgであるが,残りの106Pgは他の炭素のリザーバーから移動してきた「自然炭素」である。一方,海洋,陸上には残りの人為炭素約220Pgのうちそれぞれ半分が蓄積されているものと思われる。仮想的な人為炭素の動きを追うことで地球の炭素循環システムと人類が行っている擾乱作用がよく理解できる。
  • -東京都税制調査会での検討案の評価-
    杉野 誠, 有村 俊秀, 森田 稔
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 126-133
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    世界各国で温暖化対策が進む中,我が国でも同対策の導入に向けた動きが本格化している。電力部門からのCO2排出量は,日本全体の排出量の1/3を占めている。一方,民生部門からの排出量のうち,約6割が電力使用によるものである。よって,同部門での対策を促す上で,化石燃料の他に電力に対しても消費段階で課税することが望ましい。しかし,化石燃料や電力は,産業や家計にとっては必需品であるため,課税によって税負担が強いられる。
    本研究では,東京都税制調査会によって検討された「2,049円/t-CO2」の税率を化石燃料と電力にそれぞれ課した場合の産業と家計への短期的な影響について,産業連関分析を用いて分析した。分析の結果,課税による産業全体の影響は0.33%の負担増であり,軽減措置を実施した場合では0.30%まで緩和された。業種別では,一部の業種で高い価格上昇率となったが,大多数の業種では1%未満とそれ程大きな影響は見られなかった。一方,家計への影響は,所得階層別では,低所得層ほど課税による家計費上昇率の値が高く,最も高い層と低い層の間に約1.5倍の差があることが分かった。さらに,地域別では,寒冷地ほど課税による家計費上昇率が高い傾向が見られた。こうした家計費上昇率が高い家計の特徴として,家計支出に占める光熱費の割合が高いことが見られた。
  • 橘 隆一, 近藤 浩正, 荒川 正幹, 後藤 尚弘, 船津 公人, 藤江 幸一
    原稿種別: 一般論文
    2012 年 25 巻 2 号 p. 134-150
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
    産業連関表に基づいた都道府県単位のマテリアルフロー分析(MFA)を行うには,産業連関表の各品目について適切な重量単価の原単位を計算し,産業連関表の金額ベースの単位を重量ベースに変換しなければならない。全ての品目について都道府県単位で統計資料が存在するわけではなく,また地域や年代によって重量単価が異なるため,これらの数値を適切に設定することは簡単ではない。このため,品目別国内生産額表から推定した重量単価を初期値として,より適切な値を求めるための手法の開発が必要とされている。そこで我々は,重量単価を設定することで産業連関表から各品目の生産量および廃棄物量を推定した値と,他の統計資料から得られる生産量および一般廃棄物処理実態調査等から得られる廃棄物量とを比較し,その差が最小となるような重量単価を,コンピュータによって半自動的に設定できる最適化モデルを開発した。さらに,この最適化した重量単価を用いて神奈川県のMFAを行った。その結果,神奈川県では,投入される資源の半分近くを原油・天然ガスが占めていることがわかった。投入される原油・天然ガスの多くは,第一次,第二次産業,サービス業,一般消費で消費され,移輸出量の9割以上を石油製品が占めていた。第一次,第二次産業の原料は,移輸入(資源)に依存していると考えられ,移輸出入バランスも減少していたことから,特に1980年から1985年の間に輸出産業中心の経済に転換し始めたと考えられた。炭酸ガスを含めた廃棄物等の発生量は,20年間でおよそ1/4に縮小した。これは,県外,海外に工場を移転することにより本来排出されていた廃棄物が減少したことや,1993年の環境政策にもとづき,廃棄物問題を中心とした環境問題への取り組みが進んだことが影響したと考えられた。
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