植生学会誌
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原著論文
札幌市篠路湿地の植生および水文環境の現状と保全について
冨士田 裕子井上 京
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2005 年 22 巻 2 号 p. 113-133

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抄録

  1.北海道札幌市篠路町福移に残存する湿地の植生と水文環境を調査し,現状把握と保全の提言を行なった.
  2.湿地の植生は,5つの草本群落(ヌマガヤ-ミズゴケ群落,ヨシ群落,ヌマガヤ群落,ササ群落,ススキ・ササ群落)と1つの森林群落(シラカンバ・ハンノキ群落)に区分された.
  3.残存する群落の中で最も原植生に近いと考えられたヌマガヤ-ミズゴケ群落は,1976年と1996年撮影のカラー空中写真の比較から,表層部泥炭のはぎ取り跡に二次的に成立した群落であることが明らかになった.
  4.現地踏査と空中写真判読から,湿地内には多数の泥炭採掘跡のプールと数多くの排水路が存在し,周囲は道路や埋立地,排水路で囲まれ人為的撹乱を広範囲にわたって受けていることが明らかになった.
  5.地形測量結果から,湿地の数箇所で埋め立てや盛土によって生じた泥炭の地盤変状(側方流動)がみられ,周辺の土地利用の影響も加わった地形変化が著しいことが明らかになった.
  6.地下水位は群落の違いに関係なく,秋から融雪期まで安定した水位を保っているが,夏季に大きく低下し湿地全体が乾燥状態にさらされることが明らかになった.夏季の大きな地下水位変動は湿地内に掘削された排水路が一因と考えられた.
  7.泥炭層は約5m堆積しており,層位は篠路湿地が河川の氾濫の影響を受けながら形成された低位泥炭地から雨水涵養性の高位泥炭地に発達していった過程を示していた.表層から深さ50cm付近までの泥炭は,地下水位の低下によって分解が進んでいた.
  8.調査結果は,篠路湿地が湿地としての機能を維持するには危機的な状況であることを示している.今後は,乾燥化の防止と水供給の手法,積極的な湿地植生の保全・復元の手法の検討が必要である.当面,乾燥化の防止策として,湿地内の排水路の堰き止めと,雨水の流出防止策を考えるべきである.

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