本論文では,現代の美術科教育制度が,新自由主義社会構造改革を進めるポスト・デモクラシー下で,その教育-学習の機会保障問題に直面しているとの認識から,その正統性を問題にするために,再帰性の概念を手がかりに次の検討を行った。まず,美術科教育学,美術科教育イデオロギー,美術科教育制度がそれぞれ自明にしている諸前提を明らかにした。次に,教育-学習の機会保障を行う公的な学校教育としての美術科教育が,立憲主義下での憲法的要請に基づいているという前提に遡り,自由権と社会権の観点から教科主義と子ども中心主義について原理的分析を行った。その上で,これらが社会から脱文脈化された学校システムであるという限界を指摘し,社会へ再文脈化する美術科教育再編の社会・政治的意義を示した。