2018 年 39 巻 p. 263-274
本研究の目的は,視覚障害者の「手でみる」鑑賞に焦点を当て,触覚による鑑賞の過程を明らかにすることであった。鑑賞経験を有する全盲の視覚障害者3名の協力を得て,彫刻作品を鑑賞しながら「発話思考法」を実施した。彼らの語りを分析した結果,触覚による鑑賞では,鑑賞者は観察した情報を頭の中で繋ぎ合わせて作品のイメージを構築すると同時に様々な触覚的な作品の質に注目し,繊細な特徴を捉えていた。 鑑賞の過程を時間的な側面から見ると,開始直後から集中して観察を行い,中盤には作品を確認・分析し,終盤にはそこからでてくる感情やメッセージの理解にもとづいて解釈や評価を行い,それぞれの鑑賞者が作品の意味を構成する過程が見られた。 以上より触覚による鑑賞は,「作品全体の把握」,「モチーフの分類」,「モチーフの特定」,「確認・分析」,「解釈・評価」の過程を経て行われるという結論に至った。